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【最新版】フィリピン・日比租税条約の申請方法を徹底解説

フィリピン非居住者である日本親会社がフィリピン法人からフィリピン源泉所得を受け取る場合、当該所得はフィリピンにおいて課税対象となり、フィリピン法人により源泉徴収が行われます。一方、日本においても当該所得が課税対象となっており、フィリピンと日本の二国間において二重課税が発生してしまいます。こうした二重課税を排除するために、二国間において日比租税条約が締結されており、フィリピン法人による源泉徴収税については租税条約適用申請(Tax Treaty Relief Applications:TTRAs)を行うことで、軽減・免除が可能となります。
本記事の目的は、最新のBIR通達を踏まえた正しい日比租税条約の適用・申請方法を理解することです。
日本とフィリピンの租税条約は二重課税を防止する重要な枠組みですが、申請の誤りや書類不備があると適用却下・追徴課税につながります。
とくに2021年以降の制度改正で、申請様式と期限が一変しました。旧来の「CORTTフォーム」は廃止され、今ではRFCまたはTTRA制度が標準です。
2021年以降の大きな変更点
- CORTT(Certificate of Residence for Tax Treaty Relief)制度は廃止
→ 現在は「RFC」または「TTRA」で申請。 - 手続の期限と提出先が明確化
→ 支払後にITAD(International Tax Affairs Division)へ提出。 - 期限は課税年度末の4ヶ月後の最終日(通常4月30日)
→ 遅延すると適用却下のリスク。 - COE(Certificate of Entitlement)のテナーにより再申請要否が決まる
→ テナーに「将来の同種支払に適用」と明記されていれば、同契約内では再申請不要(RMC 20-2022)。
これらの変更を知らないまま旧制度で処理している日系企業は少なくありません。今後は「RFC/TTRA+年次更新+テナー確認」が標準プロセスです。
日比租税条約のキホン(何が軽減・免除の対象か)
租税条約の目的と構造
日比租税条約は、日本とフィリピン間の二重課税を防止し、投資促進と税務の安定性を確保することを目的としています。
条文は大きく「適用範囲(Article 1〜4)」「課税権の配分(5〜22)」「相互協議・情報交換(23〜27)」に分かれます。
このうち企業が実務で最も関わるのは配当・利子・ロイヤルティ・事業利益・役務提供所得に関する条文です。
対象となる代表的な所得
| 所得区分 | 通常税率(国内) | 条約適用後(軽減) |
|---|---|---|
| 配当 | 25% | 10%(または15%) |
| 利子 | 20% | 10% |
| ロイヤルティ | 25% | 10% |
| サービス所得 | 25% | 原則免除(PEがない場合) |
このように、租税条約を適用することで最大で税率を半減以下に抑えることが可能です。
ただし、適用を受けるには正しい手続(RFC/TTRA)を期限内に行うことが肝要です。
条約適用の前提条件
- 相手国の居住者(resident)であること(日本側は国税庁発行のTRCで証明)
- ベネフィシャル・オーナー(実質的受益者)であること
- 所得の性質が条約対象に該当すること
- 正しいフォーム(BIR Form 0901シリーズ)と書類を添付して申請すること
ここまでが条約の概要です。
次に、2021年以降に導入された新手続の背景と構成を見ていきましょう。
2021年以降の手続変更(RMO 14-2021を理解する)
RMO 14-2021の概要
2021年8月、BIRはRevenue Memorandum Order (RMO) No. 14-2021を公布し、従来のTTRA制度を全面的に改正しました。
目的は「条約恩典申請の効率化と重複排除」。
これにより、申請書類・提出先・期限・審査プロセスが明確に統一されました。
RFCとTTRAの違い
| 区分 | RFC(Request for Confirmation) | TTRA(Tax Treaty Relief Application) |
|---|---|---|
| 申請対象 | 条約率で源泉した場合 | 通常の国内法における税率で源泉した場合(還付目的) |
| 提出者 | フィリピン支払者(Withholding Agent) | 所得受領者(日本側) |
| 期限 | 会計年度末の4ヶ月後の最終日 | 制限なし(ただし早い方が望ましい) |
| 提出先 | BIR International Tax Affairs Division (ITAD) | 同左 |
このRMO以降、すべての条約申請はITADを通すことになりました。
従来のRDO窓口提出やCORTT提出は無効です。
RMC 77-2021・RMC 20-2022の要点
- RMC 77-2021では、フォーム番号(BIR Form 0901シリーズ)の選択ルールとFAQが示されました。
- RMC 20-2022では、「同一契約・同種支払」の場合、COE(Certificate of Entitlement)のテナーに将来適用が含まれていれば再申請不要と整理されています。
テナーによる再申請要否の確認
テナーとは、BIRが発行する証明書に記載される「効力範囲を示す文言」のことです。
COEに「この証明書は同一契約の将来支払にも適用する」と明記されていれば、次回以降の申請を省略できます。
逆に「この支払に限る」と書かれている場合は、毎回申請が必要になります。
テナーの文言次第で再申請要否が決まるという仕組みになっています。
申請の全体フロー(だれが・いつ・何を出すか)
ステップ1|支払前の準備(書類収集)
- 日本側でTRC(Tax Residency Certificate)を取得
- 所得区分に応じたBIR Form 0901を選択(例:0901-D=配当、0901-I=利子、0901-R=ロイヤルティなど)
- フィリピン側の経理担当者が条文・税率・ベネフィシャルオーナー情報を確認
ステップ2|支払時の判断
支払時点で条約率を適用するかどうかを決定します。
条約率で源泉する場合、書類を整えたうえでRFCを後日提出。
国内法による通常税率で源泉所得税を納付した場合はTTRAを後で申請して還付を受ける方法をとります。
ステップ3|支払後の申請(RFC/TTRA提出)
- RFC:支払後、課税年度末の4ヶ月後までにITADへ提出。
- TTRA:いつでも提出可能だが、早い方が望ましい。
ステップ4|審査とCOEの受領
BIR ITADは提出書類を審査し、問題がなければCOE(Certificate of Entitlement)を発行します。
COEには「適用期間」や「将来支払への適用可否(テナー)」が明記されており、
内容によっては翌年以降の支払にもそのまま適用可能です。
よくある誤りと防止策(否認・遅延を避けるために)
1. TRCの有効期限切れ
TRC(日本の居住者証明)は通常発行年に限って有効です。年度をまたぐ場合は、再取得した証明書を提出しないと無効扱いになることがあります。
2. BIR Form 0901の選択ミス
支払内容とフォームが一致していないケースが頻発します。
RMC 77-2021のAnnexには選択チェックリストがあるため、必ず参照してください。
3. RFC提出期限の見落とし
RFCは「支払後」ではなく「会計年度末から4ヶ月後」が期限です。
日本企業は4月決算に対応できずに失効してしまいます。内部締切を前倒しするか、早めに会計事務所に相談しましょう。
4. 書類の整合性不備
契約書・送金証憑・TRC・フォーム間でTINや金額が不一致だと否認リスクがあります。
社内でダブルチェック体制を導入してください。
【補足】2013年—Deutsche Bank判決の背景(遡及/期限柔軟化)
日比租税条約の運用に大きな影響を与えたのが、2013年の最高裁判決「Deutsche Bank AG Manila Branch v. Commissioner of Internal Revenue(CIR)」です。
当時の通達(RMO 1-2000)は、条約恩典を受けるには支払前にTTRAを提出し承認を得ることを条件としていました。
しかし、ドイツ銀行マニラ支店は支払後に申請したため、BIRが適用を拒否し25%の源泉税を徴収。これを不服として提訴しました。
最高裁は、租税条約上の権利は単なる行政手続より優先する国際的義務であり、TTRA提出の遅延を理由にBIRが軽減を否定するのは誤りだと判断しました。
この判決により、「事前申請が絶対条件ではない」という原則が確立し、納税者の権利が大きく保護されることになりました。
その後BIRは、この判断を踏まえて手続制度を見直し、最終的にRMO 14-2021で現在のRFC/TTRA二本立て制度を導入。これにより、支払後でも事後的に確認申請(RFC)ができる柔軟な仕組みが整備されました。
この事件は、「条約恩典は期限ではなく権利」という考え方を制度に定着させた転換点です。
現行のEOPT対応やITAD審査の流れも、実はこの判決の理念に基づいています。
まとめ(この記事のポイントと実務アクション)
日比租税条約の適用は、税率軽減の恩恵が大きい一方で、手続の正確さが命です。
2021年以降の制度改正(RMO 14-2021)では、
- CORTT廃止
- RFC/TTRA二本立て
- 提出期限(4か月後)明確化
- テナーによる再申請省略
という4点が現行ルールの核心です。
💡 実務での3ステップまとめ
- 支払前にTRCとBIR Form 0901を揃える
- 支払後4ヶ月以内にRFCを提出(またはTTRA)
- 受領したCOEのテナーを確認し、次回申請要否を判断
BIR通達を正しく理解し、期限を守って手続きを行えば、合法的に税負担を軽減し、将来的なBIR監査リスクも回避できます。
制度は適宜アップデートされますが、RMO 14-2021とRMC 20-2022を軸に管理することが今の最適解です。
✅ この記事のポイント
- 日比租税条約の適用は「RFC/TTRA+TRC+BIR Form 0901」が基本
- RMO 14-2021・RMC 77-2021・RMC 20-2022が現行ルール
- 提出期限は「会計年度末の4か月後(通常4/30)」
- COEのテナーにより再申請要否が決まる
このように、TTRA申請においては、租税条約適用の根拠となる取引や関連規定を理解した上で膨大な書類を整備する必要があり、フィリピン大使館における認証またはアポスティーユを求められるため、日本側における一定の負担も発生します。また、適宜BIRのITADにおける判断に資する追加情報を提供することが求められる可能性もあります。
煩雑な手続きに加え、適用税率の認識相違によるリスクもあるため、早めに取り組むことが望ましいでしょう。
なお、弊社においてはRFC/TTRA申請業務も行っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
