フィリピンにおける税務調査の概要

 近年フィリピンにおいては徴税目標値が引き上げられており、2023年度の目標値は前年の徴税額の10.95%増である約2.6兆ペソと公表されています。それに伴い、税務調査の各調査官にもノルマが掲げられています。そのため、日系企業に対する税務調査も増加しており、初めて税務調査の通知を受け取ったという話も耳にします。フィリピンの税務調査における指摘事項について、その根拠が不透明であることが多く、BIRから通知される追徴課税額に驚くことも往々にしてあります。一方で、指摘事項に対して、適切な資料提出、説明を行うことで、大幅に追徴課税を減らすことが見込まれます。
 本編では、税務調査の概要および一般的な指摘事項についてご紹介します。

 

 

税務調査の概要

 フィリピンにおける税務調査の手続きは、RR No.18-2013、RR No. 7-2018、RR No. 22-2020 において規定されています。
 各内規に従い、期限内に対応を行わない場合、税務調査官の算定した追徴課税の支払い義務が発生してしまうため、早急かつ適切に対応することが求められます。税務調査の流れは以下のとおりです。

概要 詳細
1 Letter of Authority (LOA) BIRによる税務調査を開始する通知です。通知に指示される年度の帳簿等の書類を提出することで税務調査が始まります。
2 Notice of Discrepancy (NOD)  BIRによる指摘事項が納税者に通知され、PAN発行前に調査官との協議が実施されます。
3 Preliminary Assessment Notice (PAN)  PANは調査結果と納税過不足額の詳細を記載した正式な通知です。調査官が追徴課税の対象となる書類を確認した後、PANを発行します。
4 Response of Disagreement PANの受領から15日以内に納税者は追徴課税に対して反論を行います。
5 Final Assessment Notice (FAN)  納税者が15日以内に反論しなかった場合はPANから15日経過後、あるいは15日以内に行った反論がBIRに受け入れられなかった場合は返答日から15日以内に最終通知となるFANが発行されます。
6 Disputed Assessment(Protest) FANの発行日から30日以内に以下どちらかの方法で反論を行います。
(i) request for reconsideration (再考依頼)
提出済みの書類の範囲で、事実や法律上の取り扱いの再確認を依頼
(ii) request for reinvestigation (再調査依頼)
書類や証憑を再提出して、再調査を依頼(再調査依頼日から60日以内に追加書類を提出)
7 Protest否認への対応(※) 否認された場合は、最終決定通知であるFDDA (Final Decision on Disputed Assessment) が発行されます。この場合、以下の対応を否認日から30日以内に行います。
(i) CTA (税務裁判所) に提訴
(ii) 再考の申し立て
8 Protest再否認への対応(※) 再考の申し立てが否認された場合は、30日以内にCTAへの提訴が必要で、行わなかった場合は追徴税額が確定します。
 ※ 180日以内にBIRの反応がなかった場合は、180日経過後、30日以内にCTA (税務裁判所)に提訴することとなります。

 

追徴課税のペナルティ

追徴課税のペナルティは以下のとおり、3種類あります。
・サーチャージ(Surcharge)・・・税額に対して一律25%
・利息(Interest)      ・・・延滞税として年率20%
・コンプロマイズ(Compromise)・・・示談金または和解金として一定額(数万ペソ~)

 なお、これらペナルティは、税務調査の追徴課税のみならず、申告遅延においても納税義務が発生するものです。

 

一般的な指摘事項

・税務申告・納付漏れ

 フィリピンにおいては、月次で拡大源泉徴収税、給与源泉徴収税、四半期ではVAT、法人所得税、フリンジベネフィット(FBT)税等の税務があります。貴社が対応すべき税目の詳細は、BIRの登録書であるCertificate of Registration(通称:COR)に記載があります。税務調査においては当該税目に係る申告が網羅されておらず、申告漏れを指摘されるケースがあります。

 申告漏れの有無はBIRに対して、タックスクリアランス(Tax Clearance)を行うことで確認が出来ます。申告漏れがある場合は、オープンケース(Open Case:未コンプライアンス有の状態)になっています。Open CaseをCloseする際には、BIRに対して未申告による上述のペナルティを支払い、手続きを行います。

 フィリピンの税務調査は基本的に3年前の財務諸表を調査対象としています。税務調査で未申告を指摘される場合、必然的に一定期間が経っており、重い延滞金額が加算されます。定期的にBIRにおいて、Open Caseが無いかを確認したり、税務調査において指摘を受けたときに対応が出来るよう、事前に会計の専門家と相談しておくことが望まれます。

 

・オフィシャルレシート・セールスインボイス

 フィリピンにおいては、証憑書類の原本保管が義務化されています。サービス業(飲食業を含む)からはオフィシャルレシート(Official Receipt:通称「OR」)、販売業からはセールスインボイス(Sales Invoice)が発行されます。このOfficial Receipt / Sales Invoiceの原本がなければ損金算入できないため、白紙に貼り付け連番で整理することで、適切に保管することが求められます。

 交通費等の小さな損金についてはOfficial Receiptが無い場合においても指摘を受けないこともありますが、金額の大きいサービスについてOfficial Receiptが提示出来ない場合、損金として見做されず、ペナルティを含めて大きな追徴課税が発生するリスクがあります。なお、Official Receiptと似た証憑にAcknowledgement Receipt(通称「AR」)がありますが、こちらは損金算入のための正式な領収書ではありません。例えば、毎月のオフィス家賃について、貸手がOfficial Receiptを発行しないケースもありますが、税務上必要な手続きと考え、必ず取得することが重要です。なお、一部の電子取引等においてOfficial Receiptが必須とならない条件もありますので、実態に沿って対応をしましょう。

 

・税務調査の担当官による算出ミス

 LOAを受領後、会社は帳簿等の書類を期日までに提出し、BIR担当官により実地を含めた調査が開始されます。担当官は現地でヒアリングを行うものの、基本的には受領した帳簿等の書類から取引を推測して追徴課税を算出します。しかしながら、実際の会社の取引と担当官の理解が乖離しており、正しく算出がなされていない場合もあります。また、担当官が同じ税目を二重で引用したり、単純な計算ミスをする場合もあります。
その誤認識に基づいた追徴課税の算出により、実際にPANでは過大な金額が記載されていることが往々にしてあります。実際に税務調査に対応する場合には、会計の専門家を交えて担当官との交渉を依頼することで、追徴課税を大きく減額させる可能性が高いと言えます。

 

・源泉徴収税率の違い

 フィリピンにおいては、月次で拡大源泉徴収税(EWT)を申告する必要があります。この源泉徴収税は、主にサービスを受けた場合に、サービスの買手が全額を支払わずに所定の料率を徴収して、申告納付をするというものです。この源泉徴収税は、サービスの種類によって適用される料率が異なることから、特に税務調査においてミスが発覚し、ペナルティを受けるケースがあります。この認識について、担当官と揉める場合もあるようです。
一例として、一般的なサービスでは2%、レンタルでは5%です。サービス会社から車をレンタルする場合、5%の税率が対応しますが、その契約書にドライバー付帯の記載があった場合、これは通常のサービスとみなされ、2%の税率が対応する場合があります。しかしながら、契約書によってはレンタルかサービスか曖昧な場合に2%を適用して、税務調査の担当官が5%と判断した場合、税率の差である3%が申告漏れだったとされる場合があるのです。
このようにサービス内容によって税率が違うという認識が必要です。また内容が曖昧な場合には保守的により高い税率を使用して源泉徴収申告をすることで、リスクは軽減できます。より正確な税率に迷った場合、会計の専門家に確認をすることが望ましいでしょう。

 

・フリンジベネフィット税(FBT)

 税務調査で頻発する指摘項目に、フリンジベネフィット税(FBT)または付加給付税があります。これは、雇用主から平社員以外の従業員に対して提供される物品やサービス等の経済的利益を供与する際に発生する税目です。代表的な具体例は以下のとおりです。
・車両やレンタカー代(社用を除く)
・コンドミニアムの家賃(オフィスまでの距離が50メートル以内であれば例外的に対象外)
・メイドやドライバーの提供
・日本人学校等の教育費用

 FBTは、特にローカル会計事務所では理解度が低いために正しく税務処理がなされていないケースが多く、日系企業への税務調査においては高い確率で指摘を受けているようです。FBTに係る追徴課税が発生する他、そもそも申告すべき税目が異なることから法人所得税の損金算入に認めて貰えないケースもあり、ペナルティも含めると大きな額となることもあります。

 

 以上のように、税務調査において狙われるポイントについては理解した上で、税務調査の通知をいつ受け取っても迅速に対応ができるように、会計の専門家とともにコンプライアンスが正しく行われていることを確認し、常に帳簿等の資料を適切に管理するよう心掛けていくことが重要です。
 弊社では、税務調査への対応につき、約100万円~の比較的安価な費用にて、迅速にサポートいたします。各手続きにタイトな期日が設けられているため、通知を受けた際には速やかにご連絡いただければ幸いです。

 

 

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投稿者プロフィール

Kazuki Hibino
Kazuki Hibino
独立系コンサルティングファームにて、M&A事業部、内部監査室を経て、2015年にフィリピン赴任。その後、外資系コンサルティングファームに転職し、主に国内上場企業のM&AにおけるFA業務を経験。2023年にフィリピンにて独立。