フィリピンの不当留保金課税について

 フィリピンにおいては、2021年迄、払込資本金額を超えた剰余金を有している場合、企業が利益を配当する代わりに不当に留保していると見做され10%の税金が課せられる不当留保金課税制度(IAET:Improperly Accumulated Earning Tax )がありました。

 本制度は、2021年3月26日に成立したCREATE(企業復興税優遇法)により廃止されています。しかしながら、過年度に係る税務調査においては指摘を受ける可能性がある他、会社法において資本金を超える利益剰余金の保有を禁止する規定が存在するため、無制限に留保が許容されるわけではありません。

 

 会社としては、事業の健全性を担保するために、一定の留保利益があることが好ましいと考えられます。投資家や銀行など、財務情報を利用する人々にとって、企業の成長や融資を行う上での重要な判断材料となります。しかし、留保利益が過剰でないかどうかを判断する必要があります。
 本編では、不当留保金課税制度の廃止、留保利益の定義や分類、例外、および規制要件について掘り下げます。

 

 

不当留保金課税制度の廃止

 不当留保金課税制度(IAET)とは、企業が利益を配当する代わりに留保することにより、株主に関する所得税回避目的で設立される法人に課せられる制度でした。
 毎課税期間、企業内に不当に留保された課税所得に対して10%の税金が課せられるものであり、払込済資本を超えた剰余金累計額がある場合は特に対象とされました。

 これまで、多くの企業がこのIAETによる影響を受けており、BIRによる税務調査では、頻繁に指摘される問題の一つでした。
 しかし、2021年3月26日に成立したCREATEにより、不当留保金課税制度は廃止されることとなりました。これにより、税務調査でもIAETに関する問題は解消される見通しです。

 

留保利益の定義と分類

 留保利益とは、簡単に言えば、株主への配当を差し引いた企業の利益の余剰です。これは将来の投資や成長のための資金として活用されることがあります。
 留保利益は一般的に、「制限されたもの」と「非制限されたもの」に分けられます。前者は特定目的のため(たとえばローンのための留保)にに使われる留保であり、後者は自由に配当として支払うことができるものです。

過剰な留保利益とその例外

 留保利益が過剰と見なされるのは、非制限の留保利益が支払済み資本の100%を超える場合です。この場合、フィリピン会社法(RA 11232)によれば、次のいくつかの条件が例外として認められます。

• 取締役会が法人拡大プロジェクトの承認を得た場合
• 金融機関や債権者(国内外を問わず)との契約により、配当の宣言が許可されておらず同意が得られていない場合
• 企業内で特別な状況が生じ、特別な準備金が必要な場合など、その留保が明確に必要であることが示された場合

規制遵守の要件

 企業がこれらの要求事項に適合しない場合、証券取引委員会(SEC)は監査済みの財務諸表に、配当可能な留保利益の調整表を含めるよう求めます。
 この調整表は、SEC MC No.11-2008で提供されているテンプレートに基づいて作成されます。企業はこのテンプレートを参考にして、留保利益を正しく開示する必要があります。
 留保調整表では、企業の留保利益額が「単独財務諸表」または「個別財務諸表」に基づいて計算されます。親会社がフィリピンの子会社を持つ場合、留保利益の調整金額は子会社のものとなります。ただし、Revised SRC Rule 68により、親会社の留保利益調整表は連結財務諸表とともに提出する必要があります。

 さらに、国際財務報告基準(PAS 1)に基づき、財務諸表の注釈には、留保が特定の拡大プロジェクトのために承認されたことを示す情報を開示する必要があります。
 これには、プロジェクトの詳細や取締役会による承認日が含まれます。

 これらの要求事項に違反すると、SECから制裁金が科せられる可能性があります。SEC MC 6-2005に基づき、財務諸表の不完全な開示やSRC Rule 68の要件に違反する場合、以下のような罰金が課されます。

• 初回の違反:P 25,000 + 違反日ごとにP 500
• 2回目の違反:P 50,000 + 違反日ごとにP 1,000
• 3回目の違反:P 100,000 + 違反日ごとにP 1,000

 また、不当留保金課税制度廃止以前の財務諸表では不適切な留保利益が見つかれば、不当留保金課税の対象となる可能性があります。

 弊社ではフィリピンの規制関連業務に関するサポートも行っておりますので、ご不明な点やサポートが必要な場合は、お気軽にお問い合わせください。

 

 

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投稿者プロフィール

Kazuki Hibino
Kazuki Hibino
独立系コンサルティングファームにて、M&A事業部、内部監査室を経て、2015年にフィリピン赴任。その後、外資系コンサルティングファームに転職し、主に国内上場企業のM&AにおけるFA業務を経験。2023年にフィリピンにて独立。