フィリピンにおける移転価格税制の概要

 日本の親会社がフィリピン子会社等、グループ企業間での取引を行う場合、移転価格税制に関するルールや規定を遵守する必要があります。具体的には、グループ企業間での取引条件が独立した第三者と行う取引条件と同等であるかどうかを確認して適正な利益配分を行うことが必要であり、一定の基準に該当する場合には、各種書類、移転価格文書の作成および提出が求められます。

 本編では、移転価格税制および移転価格文書においての概要をお伝えいたします。

 

 

移転価格税制とは

 移転価格税制とは、グループ内の取引価格(移転価格)が、独立した第三者間で適用される価格(独立企業間価格:Arm’ s Length Price)であることを求める税制です。

 グループ内の取引価格が自由に設定されることで、所得配分が不適切に操作される余地があり、各国における課税所得配分が変化することを防ぐため、独立企業間価格によって取引を行うことを各国の移転価格税制は求めています。

 仮に外国の税務当局により、外国法人の利益を日本法人に付け替えるように見做された場合は、 その部分に対して、 課税をされてしまうリスクがあります。

 

フィリピンにおける移転価格税制

 フィリピンにおいても、 2013 年に移転価格に関するガイドラインが発表され、その後、 2019 年に移転価格調査ガイドライン (RMO No. 1-2019)、2020 年 7 月(RR No.19-2020、RMC No.76-2020 Q4)、2020年 9 月(RMC No.98-2020)、2020年12月(RR No.34-2020)と、移転価格税制に関するルールが発表されました。

 2023年6月時点のフィリピンの移転価格税制に関する規定は以下のとおり、①~③の3パターンの対応方法が示されています。

 

①BIR Form1709の提出基準

 以下に該当する納税者は年次法人所得税申告書(AITR)とともにBIR Form1709をBIRに提出する必要があります。

a)大規模納税者
b)優遇税制を享受する企業(PEZA、BOI等)
c)直近期を含めて3期連続で営業損失となっている企業
d)上記a~cの要件を満たす企業と取引がある企業

 

②移転価格文書の作成基準

 上記でBIR Form1709の提出が求められる納税者のうち、さらに以下の重要性の基準を満たす納税者は、移転価格文書の作成が求められるとされています。

 なお、移転価格文書およびその他の添付書類(契約書、 請求書、申告納付書等)は、BIR Form1709に添付してBIRに提出する必要はない一方、税務調査等においてBIRより依頼があった際には、30日以内に提出する必要があります。

a)売上高が1億5,000万PHP超かつ関連企業取引が9,000万PHP超
b)固定資産の関連企業取引が6,000万PHP超、またはサービス取引、利息の支払い、無形資産の利用やその他の関連企業取引が1,500万PHP超

 

③移転価格税制の対象外となる納税者

 上記BIR Form1709の提出を要求されない一定規模以下の中小企業は、監査済財務諸表の注記において、納税者がRR No.34-2020の対象外である旨を開示するのみであり、現時点においては特段の対応は不要と考えられています。

 

ペナルティについて

 上記①②に該当する企業で移転価格文書および各種書類の提出がない場合の罰金については、以下のとおり定められています。

<合理的な理由があり、故意の怠慢によるものではない場合>
税法250条に従い、1,000PHP~25,000PHPの罰金

<違反が繰り返された場合>
税法274条に従い、25,000PHPの罰金

<当局からの召喚状を受領したにもかかわらず、なお違反した場合>
税法266条に従い、パートナー・社長・ゼネラルマネジャー・支店長・財務役・違反の責任を負う従業員等は、5,000PHP~10,000PHPの罰金、および1年以上2年以下の懲役

 

 一連の公表により、フィリピンの移転価格税制に関わる対応方針はクリアになっています。

 弊社では移転価格文書の作成業務も行っておりますので、上記に該当する企業の皆さまにおかれましては、ぜひお気軽にご相談ください。

 

 

投稿者プロフィール

Kazuki Hibino
Kazuki Hibino
独立系コンサルティングファームにて、M&A事業部、内部監査室を経て、2015年にフィリピン赴任。その後、外資系コンサルティングファームに転職し、主に国内上場企業のM&AにおけるFA業務を経験。2023年にフィリピンにて独立。

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