【2026年9月最新】フィリピン最低賃金ガイド|NCR(マニラ)賃金命令の混乱と地域別最新レート

 フィリピンの最低賃金は、全国一律ではなく地域ごとの賃金委員会(RTWPB)が発行する賃金命令(Wage Order)によって定められています。2026年はマニラ首都圏(NCR)で大きな動きがあり、当初決定していた大幅な引き上げが訴訟により差し止められた上で、あらためて別の賃金命令で引き上げが実施されるという異例の展開となりました。本稿では、この最新の動きと、地域別の最低賃金、過去からの推移、実務対応のポイントを解説します。

目次

【最新】NCR(マニラ首都圏)の最低賃金をめぐる混乱

 2026年、NCRの最低賃金をめぐっては以下のような経緯をたどりました。日系企業にとっても「結局、今の最低賃金はいくらなのか」を正確に把握しておくことが重要です。

時期 できごと
2026年6月30日 NCR地域三者賃金生産性委員会(RTWPB-NCR)が賃金命令NCR-27に署名。日額85ペソの大幅引き上げ(非農業:695ペソ→755ペソ、2027年1月にさらに780ペソへ)を決定。「NCR史上最大級の引き上げ」として報道される。
2026年7月25日 NCR-27の第1段階(695ペソ→755ペソ)が発効。
2026年7月30日 建設関連企業2社(Readycon Trading and Construction Corp.、R-II Builders Inc.)の申立てを受け、パシッグ地方裁判所がNCR-27の実施を一時停止する仮処分命令(TRO)を発令。
2026年8月13日 TROの期限切れに伴い、裁判所は予備的差止命令(preliminary injunction)へ移行。裁判所は100億ペソの担保金の供託を条件としたが、労働側が供託せず、差し止めが継続。この間は旧NCR-26の695ペソが適用される状態に。
2026年9月上旬 DOLE(労働雇用省)が差し止めの解除を裁判所に申し立てるも、係争は継続。
2026年9月10日 RTWPB-NCRが、NCR-27とは別の新たな賃金命令NCR-28を発行。日額60ペソの引き上げ(非農業:695ペソ→755ペソ/農業・小規模小売サービス業・小規模製造業:695ペソ→718ペソ)を決定。NCR-27の訴訟が係属中であっても労働者に追加収入をもたらすことを目的とした措置と説明されている。
2026年9月26日 NCR-28が発効。対象労働者は約110万人。

 実務上のポイントとして、2026年9月26日以降はNCR-28に基づき非農業部門で日額755ペソ(NCR-27の最終目標額と同水準)が適用される一方、NCR-27自体の訴訟の帰趨は係属中であり、今後の司法判断によって法的な位置づけが変わる可能性がある点には留意が必要です。給与計算・人件費予算については、最新の状況をDOLE・RTWPB-NCRの公式発表で随時確認することをおすすめします。

フィリピンの最低賃金制度の基本

 フィリピンには全国一律の最低賃金はなく、地域ごとに設置された地域三者賃金生産性委員会(RTWPB:Regional Tripartite Wages and Productivity Board)が、物価動向・生活費・地域経済の状況を踏まえて賃金命令(Wage Order)を発行し、最低賃金を改定します。従来存在した生計費調整手当(COLA)は、近年多くの地域で基本給に統合されています。賃金命令は業種(農業/非農業)や事業規模(小規模小売・サービス業、小規模製造業など)によって異なる金額が定められるのが一般的です。

地域別の最低賃金(2026年時点の一例)

地域 非農業部門 その他区分 直近の改定
NCR(マニラ首都圏) 755ペソ/日 718ペソ/日(農業・小規模小売サービス業・小規模製造業) NCR-28(2026年9月26日発効)
中央ビサヤ(セブ等) 540ペソ/日(Class A:拡大メトロセブ地域) 500ペソ/日(Class B:その他地域) ROVII-26(2025年10月4日発効)

 このほか、ダバオ地域を含む全国17の賃金地域ごとに、それぞれ独自の賃金委員会が最低賃金を定めています。全地域の最新の金額は、DOLE傘下の国家賃金生産性委員会(NWPC)の公式サイトで確認できます。進出エリアの選定にあたっては、地域別の人件費水準も判断材料の一つとなります。マニラ・セブ・ダバオ・クラークの特徴比較はセブ島での起業-マニラとの比較で解説しています。

NCRの最低賃金の推移

賃金命令 発効日 非農業部門 引き上げ幅
NCR-24 2023年7月16日 610ペソ
NCR-25 2024年(CPI上昇を踏まえ改定) 645ペソ +35ペソ
NCR-26 2025年7月18日 695ペソ +50ペソ(当時「NCR史上最大の引き上げ」、対象約120万人)
NCR-27 2026年7月25日(訴訟により係争中) 755ペソ(目標) +85ペソ(2段階、係争中)
NCR-28 2026年9月26日 755ペソ +60ペソ(対象約110万人)

 このように、NCRの最低賃金は過去数年、毎年のように改定が続いています。日系子会社においては、単年の水準だけでなく、継続的な引き上げペースを前提とした中長期の人件費計画が必要です。

日額から月額への換算の考え方

 給与計算上、日額の最低賃金を月額換算する際は、勤務日数・休日出勤の有無・会社の給与規程によって計算式が異なります(DOLEが定める複数のEEMR係数のいずれを用いるかは、対象労働者の休日勤務の有無等によって変わります)。目安として、日額×年間所定労働日数÷12ヶ月という考え方が基本になりますが、法定休日・特別休日の扱いを含めた正確な計算は、DOLEの公式ガイドラインに基づいて行う必要があります。

人件費・社会保険料への影響

 最低賃金の引き上げは、基本給だけでなく、SSS(社会保障制度)・PhilHealth(健康保険)・Pag-IBIG(住宅積立基金)といった社会保険料の算定基礎にも影響します。各制度の保険料率・算定方法はフィリピンの社会保険制度まとめで解説しています。また、賃金水準の変動は源泉徴収税額にも影響するため、個人所得税に関する記事もあわせてご参照ください。

日系子会社が取るべき対応

 NCRのように、賃金命令が訴訟によって差し止められたり、短期間で新たな命令に置き換わったりするケースもあるため、DOLE・RTWPB各地域委員会の公式発表を継続的に確認できる体制を整えることが重要です。また、最低賃金・社会保険料の改定を前提とした人件費予算のバッファを持たせておくこと、給与計算システムやアウトソーシング先との連携を早めに行い、発効日に遅れず対応できるようにしておくことが求められます。会計・税務全般の実務対応についてはフィリピンの会計実務完全ガイドフィリピンの税務完全ガイドもご覧ください。

まとめ

 フィリピンの最低賃金は地域ごとに異なり、かつ頻繁に改定されるため、進出済み・進出検討中いずれの企業にとっても継続的なウォッチが欠かせません。特に2026年のNCRのように、訴訟の帰趨によって適用される賃金命令が変わり得る点には注意が必要です。弊社では、給与計算・社会保険対応を含む会計・税務コンプライアンス全般をサポートしております。最新の実務対応についてご相談がある場合は、お気軽にお問い合わせください。

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