【2026年申告対応】フィリピン移転価格文書化の実務|BIR Form 1709の提出義務判定フローと、TPD作成の閾値・期限・ペナルティ

フィリピンの移転価格税制では、関連者取引を行う企業のうち一定の基準に該当する場合、BIR Form 1709(関連者取引情報申告書)の年次申告書への添付が義務付けられ、さらに一定の閾値を超えると税務調査で提出を求められた際に30日以内にTPD(移転価格文書)を提出できる状態にしておく必要があります。日本本社との間で経営指導料・役務提供・部品取引などがある日系現地法人の多くは、この提出義務の対象になり得ます。本記事では、Form 1709の提出義務者の判定、TPD作成が必要になる閾値、実際の文書内容と提出期限、対応しなかった場合のペナルティを整理します。

この記事の要点

  • BIR Form 1709(RPT Information Return)の提出義務者は、Large Taxpayers、ITH・優遇税率適用の登録企業、直近3年以内に欠損金を計上した企業、およびこれらの関連者。日本本社と経営指導料・役務提供・部品取引等がある日系現地法人の多くが該当し得る
  • TPD(移転価格文書)の作成義務は3つの基準のいずれかに該当した場合に発生:①総収入1.5億ペソ超かつ関連者取引9,000万ペソ超、②単一取引で商品6,000万ペソ超または役務・利子・無形資産1,500万ペソ超、③前年度にTPD作成義務があった場合
  • TPD自体は申告時に提出するものではなく、BIRから正式に要求された日から30日以内(原則延長不可)に提出できる状態で保管しておく必要がある
  • TPDの内容はRAMO 1-2019に基づき、組織構造、機能・資産・リスク分析(FAR分析)、比較可能性分析、移転価格算定方法の選定根拠、経済分析(ベンチマークスタディ等)、契約書・請求書等の裏付け資料で構成される
  • Form 1709の不提出・期限徒過には内国歳入法第250条により1件につき1,000ペソ(年間上限2.5万ペソ)の罰金に加え、更正時には不足税額への年20%の利息・Compromise Penalty(最大5万ペソ程度)が別途課され得る

最終更新日:2026年9月。RAMO・RRの改正があった場合は随時更新します。

フィリピンの税務全体の位置づけについては「フィリピンの税務完全ガイド」もあわせてご参照ください。

目次

Form 1709(RPT情報申告書)の提出義務者

フィリピンの移転価格税制は、RR 34-2020により整備されたBIR Form 1709(Information Return on Related Party Transactions、RPT情報申告書)の提出義務を軸に運用されています。提出義務者は、①Large Taxpayers(大規模納税者として指定された法人)、②PEZA・BOI等の登録企業でITHまたは優遇税率(5%GIE・EDR等)の適用を受けている企業、③直近の事業年度およびその前2年間のいずれかで税務上の欠損金(Net Operating Loss)を計上した企業、④これら①〜③に該当する企業の関連者(Related Party)、のいずれかに該当する法人です。なお、企業の役員・幹部社員個人との取引(Key Management Personnel)についてはこの提出義務の対象から除外されています。日系現地法人の場合、PEZA・BOI登録で優遇税制の適用を受けているケースや、進出初期の赤字期間があるケースは少なくないため、自社が直接この基準に該当していなくても、日本本社や他の関連会社がLarge Taxpayersに指定されていれば、その関連者として提出義務が生じる点に注意が必要です。

TPD(移転価格文書)作成義務が生じる3つの閾値

Form 1709の提出義務があるからといって、必ずしもTPD(Transfer Pricing Documentation、移転価格文書)そのものを常に作成しておく義務があるわけではありません。TPD作成義務は、RR 34-2020に基づき次の3つの基準のいずれかに該当した場合に発生します。

基準 内容
基準A(総合基準) 当該年度の総収入(Gross Sales/Revenue)が1.5億ペソを超え、かつ関連者取引の総額が9,000万ペソを超える場合
基準B(個別取引基準) 単一の関連者取引で、有形資産(商品等)の取引が6,000万ペソを超える、または役務提供・利子・無形資産取引が1,500万ペソを超える場合
基準C(継続要件) 直近の事業年度においてTPD作成義務があった場合(一度該当すると翌年度以降も継続して作成が求められる)

日本本社との経営指導料・技術支援料・部品輸入・貸付金利子などを合算すると、基準Aの9,000万ペソ(日本円で概ね2.5億円前後)や基準Bの個別取引閾値に達する日系現地法人は少なくありません。特に、日本本社からの部品・原材料の輸入額が大きい製造業や、経営指導料・技術支援料を継続的に支払っているグループ会社は、自社の関連者取引の年間合計額を一度棚卸しして、いずれかの基準に該当しないか確認しておくことをおすすめします。なお、クロスボーダーでの役務提供に対する源泉課税の判定基準については「日本本社への経営指導料・技術支援料の源泉課税」もあわせてご参照ください。

TPDはいつ提出するのか:申告時ではなく「要求から30日」

ここで実務上誤解されやすいのが、TPDの提出タイミングです。Form 1709自体は年次法人税申告書(Annual ITR)に添付する形で毎年提出しますが、TPDそのものは申告時に一緒に提出するものではありません。TPD作成義務がある企業は、あくまで「BIRから要求されたら30日以内に提出できる状態」で文書を整備・保管しておく必要があり、実際の提出はBIRが税務調査等の過程で正式に要求した日から起算して30日以内(原則として延長は認められず、正当な理由がある場合に限り例外的に認められる)に行うことになります。つまり、TPDは「毎年作るが、毎年提出するわけではない、いつ求められても出せるように準備しておく文書」という位置づけです。この点を誤解し、Form 1709だけ提出してTPD自体は作成していない、あるいは古い年度のTPDのまま更新していない、というケースは実務上少なくないため注意が必要です。

TPDの内容:RAMO 1-2019が求める文書構成

TPDの具体的な内容は、RAMO No. 1-2019(移転価格税務調査ガイドライン)に基づき、おおむね次のような構成が求められます。第一に組織構造(グループ全体および自社の資本関係・取引関係の全体像)、第二に機能・資産・リスク分析(Functions, Assets, and Risks、FAR分析。各関連者がどのような機能を担い、どのような資産を使用し、どのようなリスクを負担しているかの分析)、第三に比較可能性分析(当該取引と第三者間の類似取引を比較する分析)、第四に移転価格算定方法の選定根拠(独立価格比準法・再販売価格基準法・原価基準法等のうち、なぜその方法を選んだかの説明)、第五に経済分析(独立企業間価格を裏付けるベンチマークスタディや業界データ)、第六に契約書・請求書・財務諸表等の裏付け資料、という6つの要素です。これらを網羅した文書を年度ごとに整備しておくことで、税務調査時に自社の取引価格が独立企業間価格(Arm’s Length Price)に沿っていることを立証できる状態を維持できます。移転価格税制はBIRの税務調査における重点分野の一つとされており、税務調査全体の流れについては「BIR税務調査の新枠組み」もあわせてご参照ください。

ペナルティ:Form 1709の不提出・期限徒過

Form 1709を提出しなかった場合、または期限内に提出しなかった場合は、内国歳入法(NIRC)第250条(情報申告書等の不提出に対する罰則)に基づき、1件の違反につき1,000ペソの罰金が課され、この罰金の年間累計上限は2万5,000ペソとされています。金額自体は大きくありませんが、これはあくまで「提出しなかったこと」自体に対する行政罰であり、実際の税務調査で移転価格が独立企業間価格から乖離していると認定された場合は、これとは別に更正税額(不足する法人税額)そのものに加算税・年20%相当の利息が課されることになります。さらに、TPDを適切に整備していなかったことで税務調査時に自社の取引価格の妥当性を十分に立証できない場合、BIRの推計課税・比較対象データに基づく更正を受け入れざるを得なくなるリスクがあり、これが実質的に最も大きな負担につながり得ます。つまり、Form 1709自体の罰則額の大小よりも、「TPDを整備していないことで税務調査時に反論の材料がない」という状態そのものが最大のリスクだと捉えるべきです。加算税・延滞利息の一般的な計算方法については「税務ペナルティの計算方法」もあわせてご参照ください。

CREATE MORE法下での関連者取引への注目度の高まり

CREATE MORE法によりEDR(拡張控除制度)や5%GIEといった優遇税制の適用を受けるPEZA・BOI登録企業は、Form 1709の提出義務者に該当することが明記されています。優遇税制の適用を受ける企業ほど、関連者間の取引価格操作によって課税所得を優遇対象の事業体に付け替えるインセンティブがあるという政策的な問題意識が背景にあり、実務上もBIR・IPA双方が優遇適用企業の関連者取引をより注視する傾向が強まっています。CREATE MORE法の優遇税制の全体像については「CREATE MORE法の優遇税制まとめ」もあわせてご参照ください。

よくある質問

日本本社からの経営指導料の支払いだけでも移転価格文書化の対象になりますか?

経営指導料単体の年間金額が1,500万ペソを超える場合は基準Bに該当し、TPD作成義務が生じ得ます。単体では届かなくても、部品輸入・貸付金利子など他の関連者取引と合算して基準A(総収入1.5億ペソ超・関連者取引9,000万ペソ超)に該当するケースもあるため、関連者取引の総額を年次で棚卸しすることをおすすめします。

TPDは税務調査が来るまで作らなくてもよいですか?

作成義務がある企業は、BIRから要求された日から30日以内に提出できる状態にしておく必要があります。税務調査の通知を受けてから30日でゼロから作成するのは実務上困難なため、対象企業は毎年度末にあわせてTPDを作成・更新しておくのが現実的です。

TPDを作らずにForm 1709だけ提出していれば問題ありませんか?

Form 1709の提出義務とTPD作成義務は別の基準で判定されるため、Form 1709を提出していてもTPD作成義務の閾値に該当していればTPDの整備も必要です。TPDを整備していないと、税務調査時に自社の取引価格の妥当性を立証できず、BIRの推計課税を受け入れざるを得なくなるリスクがあります。

いったんTPD作成義務が生じたら、翌年以降も継続して作成が必要ですか?

はい。基準Cにより、直近の事業年度でTPD作成義務があった場合、その後の年度も継続してTPDの作成が求められます。取引規模が閾値を下回った年度があっても、自動的に義務が消滅するわけではない点に注意してください。

移転価格の税務調査で否認されると、追徴額はどのくらいになりますか?

否認された取引価格と独立企業間価格との差額が課税所得に加算され、その不足税額に加算税・年20%の利息が課されます。関連者取引の規模が大きい企業ほど、一度の否認による追徴額も大きくなる傾向があるため、日頃からのTPD整備が重要です。

まとめ・専門家への相談

フィリピンの移転価格税制は、Form 1709の提出義務とTPD作成義務という2段階の基準で構成されており、日本本社との取引が一定規模を超える日系現地法人の多くが何らかの形で対象になり得ます。特にTPDは「毎年提出するものではないが、いつでも出せる状態にしておくべき文書」という性質上、対応が後回しにされがちですが、税務調査時に立証材料がない状態は最大のリスクです。自社の関連者取引が閾値に該当するかどうかの判定、TPDの作成・更新については、専門家への相談をおすすめします。カメリアコンサルティングでは、日系現地法人の移転価格文書化支援にも対応しています。

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執筆・監修:日比野和樹

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