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【2026年最新】フィリピンの税務完全ガイド|法人税25%・VAT12%・源泉税から税務調査・移転価格まで、日系子会社が押さえるべき全論点
フィリピンの税制は、国税(BIR)と地方税(LGU)、そしてPEZA・BOIなどの投資優遇レジームが重なり合う三層構造になっています。日系子会社が実務で押さえるべきなのは、①自社がどの優遇レジームに該当するか、②法人税・VAT・源泉税の基本税率と申告実務、③税務調査やペナルティが実際どう運用されているか、の3点です。本記事では、この全体像を一次資料(BIR発出のRR・RMC・RMO、財務省・JETROの公式発表)ベースで整理し、各論点の詳細は個別記事にリンクしています。日本本社の経営企画・経理担当者の方にも、現地法人の管理部門の方にも参照いただける構成にしています。
この記事の要点
- 法人税は原則25%だが、EDR(強化控除レジーム)適用のRBEは20%、中小企業向けの軽減税率20%など複数の税率が併存する
- VATは12%。登録義務は年間売上300万ペソ超で発生し、ゼロレートと免税は還付可否が異なるまったく別の制度
- 2026年はBIR税務調査の枠組みが「1年1eLA」のSingle-Instance Auditに刷新され、PEZA企業の国内販売VATにも大きな制度変更があった
- 移転価格税制はBIR Form 1709の提出義務判定と閾値の理解が実務の出発点
- 新・日比租税条約(2026年5月署名)で配当・使用料の源泉税率が変わる見込み
最終更新日:2026年9月。制度改正が多い分野のため、本記事は新法令の発出に合わせて随時更新します。
フィリピンの税金はどう分類されるか(全体マップ)
フィリピンで事業を行う法人が納める税金は、大きく「国税」「地方税」「優遇レジームによる特例」の3層に分かれます。この分類を最初に理解しておくと、以降の各論がどこに位置づけられるかが把握しやすくなります。
国税(BIR)と地方税(LGU)の違い
国税は内国歳入庁(BIR: Bureau of Internal Revenue)が管轄し、法人税・VAT・源泉税・印紙税などが該当します。一方、地方税は事業所を置く市・自治体(LGU: Local Government Unit)が管轄し、事業税(Local Business Tax)や事業許可(Mayor’s Permit / Business Permit)の更新料、不動産税(RPT: Real Property Tax)などが該当します。国税の申告・納付が適切でも、地方税の手続きを怠ると事業許可の更新ができず営業自体が止まるリスクがあるため、両方を並行して管理する必要があります。加えて、法人登記自体はSEC(証券取引委員会)が所管しており、年次の一般情報シート(GIS)や監査済財務諸表(AFS)の提出義務はBIRとSECの両方に発生する点にも注意が必要です。
通常課税とPEZA・BOI優遇の違い
フィリピン進出企業、特に輸出型の製造業やBPOにとって影響が大きいのが、PEZA(フィリピン経済区庁)やBOI(投資委員会)による投資優遇です。登録が認められると、法人所得税免税(ITH: Income Tax Holiday、通常4〜7年間)を経て、その後は総所得課税5%(5% GIE:Gross Income Earned)または強化控除レジーム(EDR)のいずれかを選択する仕組みに移行します。ITH終了後の優遇期間は、輸出企業(Export Enterprise)で最長20年、国内市場企業(Domestic Market Enterprise)で最長10年と、事業類型によって異なります。たとえばセブに進出した日系部品メーカーがPEZA登録を受け輸出比率70%以上を維持する場合と、国内販売中心のBOI登録企業とでは、ITH終了後に適用される優遇の残存期間もVATの扱いも変わってくるため、自社がどちらに属するかの確認が全ての出発点になります。
投資優遇の対象業種・上限期間は、政府が毎年公表する戦略的投資優先計画(SIPP)によって細分化されており、業種や投資規模に応じてTierが分かれます。製造業の中でも高度な技術移転を伴う投資はより長い優遇期間の対象になりやすく、進出計画の段階でSIPP上の該当Tierを確認しておくと、優遇期間の見通しが立てやすくなります。また、地域統括拠点として設立するRHQ(Regional Headquarters)・ROHQ(Regional Operating Headquarters)は、通常の現地法人とは異なる登録要件・税務上の扱いが定められているため、複数国展開の司令塔をフィリピンに置く場合は別途の検討が必要です。
優遇税制の枠組みは2024年のCREATE MORE法(RA 12066)で大きく改正されており、詳細は別記事「CREATE MORE法で優遇税制はこう変わったか」で解説します。
また、PEZA登録企業が登録後に直面する年次コンプライアンス(ITH終了判定、5%GIE/EDRへの移行手続など)は「PEZA登録後の税務コンプライアンス完全ガイド」で扱います。
地方税・事業許可更新の実務は「地方税とMayor’s Permit更新の実務」で詳しく解説します。
法人税とVATの基礎知識【2026年最新】
法人税:原則25%、条件付きで20%
フィリピンの法人所得税(RCIT: Regular Corporate Income Tax)は原則25%です。ただし、課税所得500万ペソ以下かつ総資産1億ペソ以下(土地を除く)の内国法人には20%の軽減税率が適用されます。また、CREATE MORE法によりEDR(強化控除レジーム)を適用するRBE(登録事業体)についても、2024年11月28日に遡って法人税率が20%に引き下げられています。加えて、最低法人税(MCIT: Minimum Corporate Income Tax)が総収入の2%として、営業開始から4課税年度目以降、通常のRCITより高くなる場合に適用されます。
| 区分 | 税率 | 備考 |
|---|---|---|
| 通常の内国法人 | 25% | 原則税率 |
| 中小企業(課税所得500万ペソ以下・総資産1億ペソ以下) | 20% | 土地を除く総資産で判定 |
| EDR適用RBE(CREATE MORE) | 20% | 2024年11月28日に遡及適用 |
| MCIT(最低法人税) | 総収入の2% | 営業4年目以降、RCITより高い場合に適用 |
| 5%GIE適用RBE(PEZA等) | 総所得の5% | ITH終了後に選択可能なレジームの一つ |
たとえば課税所得が2,000万ペソの通常の内国法人であれば、RCITは25%で500万ペソです。一方、同じ収益構造でも総収入ベースのMCIT(2%)を計算した場合に500万ペソを上回るのであれば、高い方の金額が納税額になります。設立初期でRCITベースの税額が小さくなりやすい会社ほど、4年目以降にMCITとの比較を怠らないようにする必要があります。
繰越欠損金(NOLCO)は原則3年間の繰越が可能ですが、2020〜2021課税年度に生じた欠損金についてはコロナ禍対応として5年間の繰越が認められており、この暫定運用は2026年になっても実務が続いています(後述の2026年改正まとめを参照)。減価償却や引当金の税務上の取り扱いは日本の会計基準と異なる部分があるため、日本本社への報告用数値とフィリピン税務申告用の数値を別管理している企業も少なくありません。
VAT:12%、登録基準は年間売上300万ペソ
VAT(付加価値税)の標準税率は12%です。年間の売上・受取額が300万ペソを超える事業者はVAT登録義務者となり、超えない場合は非VAT事業者としてパーセンテージ税(3%、EOPT法により従来の運用から見直し)の対象になります。VATの計算構造はシンプルで、売上に係る「Output VAT」から仕入・経費に係る「Input VAT」を控除した差額を納付します。たとえば売上高1,000万ペソ(Output VAT 120万ペソ)に対し、仕入・経費が800万ペソ(Input VAT 96万ペソ)であれば、納付すべきVATは24万ペソです。輸出取引などでInput VATがOutput VATを上回る場合は、繰越または還付の対象になります。
実務でつまずきやすいのが「ゼロレート(0%課税)」と「免税(VAT-exempt)」の違いです。ゼロレートは売上にVATがかからない一方で仕入税額の控除・還付が可能なのに対し、免税取引は仕入税額そのものが控除できません。輸出企業やPEZA登録企業の取引を扱う場合、この区別を誤ると還付できるはずの税額を取りこぼすことになります。また、EOPT法(Ease of Paying Taxes Act)の施行により、サービス業・不動産賃貸業のVAT課税ベースが現金主義から発生主義に統一され、証憑もOfficial Receipt(OR)からInvoiceへの一本化が進んでいる点も、経理実務に直結する変更です。
既存記事「EOPT(Ease of Paying Taxes Act)法で変わるフィリピンの会計・税務実務」で、OR→Invoice移行の実務フローを解説していますので、あわせてご参照ください。
もう一点、日本本社や海外ベンダーからクラウドサービス・広告配信・SaaS利用料の請求を受けている場合は、デジタルサービスに対するVATにも注意が必要です。非居住のデジタルサービス提供者からの役務提供については、フィリピン側の事業者が対価から12%を源泉して納付する「リバースチャージ」の仕組みが導入されており、グループ間で日本のシステムやライセンスを利用している企業ほど見落としやすいポイントです。
PEZA登録企業(RBE)については、2025年のRR 9-2025・2026年のRR 1-2026により、国内販売にかかるVATの取り扱いが大きく変わりました。詳細は「PEZA国内販売VAT12%と買主納付|何が変わり、いつまでに何をすべきか」で解説しています。
VAT還付の実務(リスクベース審査の基準や却下されない申請書類の作り方)は「VAT還付の実務」で扱います。
源泉税は何が違うのか(EWT・FWT・租税条約)
フィリピンの源泉税は大きく「拡大源泉税(EWT: Expanded Withholding Tax)」と「最終源泉税(FWT: Final Withholding Tax)」の2種類に分かれます。EWTは支払時に源泉徴収した税額を、受取側が確定申告時に納税額から控除できる前払い的な性質を持つのに対し、FWTはそれ自体で納税が完結し、受取側は改めて申告する必要がありません。
| 取引区分 | 税率の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 物品の購入(Top Withholding Agent指定先) | 1% | 自動車・医薬品・燃料の卸売は要件次第で0.5% |
| サービスの対価 | 2% | Top Withholding Agent指定先からの支払い |
| 専門家報酬(個人) | 5%または10% | 年間受取見込額300万ペソ以下は5%、超える場合は10% |
| 専門家報酬(法人)・タレント料 | 10%または15% | 年間受取見込額72万ペソ以下は10%、超える場合は15% |
| 不動産賃貸料 | 5% | 賃借人が源泉徴収義務者の場合 |
物品の購入は1%、サービスの対価は原則2%が典型的なEWT税率ですが、自動車・医薬品・燃料の卸売については、供給者が製造業者または直接輸入業者である場合に0.5%の特例税率が適用されるようになっています(RR 24-2025:2025年9月25日発出・同年10月10日施行、RMC 79-2026で運用が明確化)。なお専門家報酬は支払先が個人か法人かで税率体系が異なり、個人への支払いは年間受取見込額300万ペソを境に5%・10%(RR 11-2018)、法人・事務所への支払いは72万ペソを境に10%・15%が適用されます。源泉徴収した側は月次・四半期でBIR Form 0619-E・1601-EQにより申告・納付し、年次では受取先ごとの明細をalphalist(BIR Form 1604-E)としてまとめて提出する義務があります。受取側にとっては、源泉徴収された証憑であるBIR Form 2307を確実に回収し、確定申告時の税額控除(またはSAWTによる還付申請)に活用することが実務上のポイントです。
源泉徴収票の実務(Form 2316を含む)は既存記事「フィリピンの源泉徴収票(BIR Form 2316)について」でも解説しています。
源泉税率のより詳しい一覧(Form 2307の回収実務、0619-E・1601-EQの申告実務を含む)は「フィリピン源泉税(EWT・FWT)税率一覧表」にまとめています。
租税条約による軽減税率
日比租税条約を適用すると、配当・利子・使用料の源泉税率が国内法上の税率よりも軽減されます。現行条約では配当10%または15%、使用料10%または15%が基本ですが、2026年5月28日に署名された新条約では、配当を持分要件に応じて5%/10%/15%の3段階に、使用料を一律10%に見直す内容が盛り込まれています。適用には税務当局への事前確認申請(RFCまたはTTRA)が必要で、居住者証明書(Tax Residency Certificate)の取得や申請期限の管理を怠ると、軽減税率が受けられず国内法上の税率で源泉徴収されてしまう点に注意が必要です。
新条約の詳細な変更点と、配当5%適用に必要な持分要件の満たし方は「新・日比租税条約の全変更点」で解説します。
租税条約適用の申請実務(RFC・TTRAの使い分けと必要書類)は既存記事「フィリピン・日比租税条約の申請方法を徹底解説」もあわせてご参照ください。
クロスボーダー取引の源泉税:日本本社への支払いは課税されるか
日系子会社が日本本社に支払う経営指導料・技術支援料・シェアードサービス費については、「国外への支払いだから自動的に課税される・されない」という単純な判断はできません。フィリピンでの所得源泉地の解釈が実質的な経済的便益の発生地で判断されるため、非課税を主張する側(=支払者であるフィリピン子会社)が、契約書・居住者証明書(TRC)・海外送金証明などで立証する必要があります。この論点は税務調査で最も否認されやすい項目の一つでもあります。
この論点は2026年3月の通達で判定基準が明確化されており、詳細は「日本本社への経営指導料・技術支援料は源泉課税されるか」で扱います。
税務調査はどう変わったか(2026年の新枠組み)
2025年後半、偽造されたLetter of Authority(LOA)が発覚したことを受けてBIRの税務調査・現地調査が一時的に停止されました。その後2026年に入り、調査は「Single-Instance Audit Framework」という新しい枠組みのもとで再開されています。これは1つの課税年度につき原則として1件の電子LOA(eLA)で法人税・VATなど全ての内国税をまとめて調査する仕組みで、従来のように税目ごとに複数のLOAが発行される状況を整理する狙いがあります。すでに発行されていた複数のLOAは2026年前半にかけて段階的に統合されており、統合されたeLAを受け取った場合の対応(標準監査チェックリストへの対応、原本の代わりに認証謄本を提出できる点、本店での往査要請ができる点など)を理解しておくことが実務上重要です。
Single-Instance Auditの詳しい仕組みと、統合eLAが届いたときの対応手順は「BIR税務調査の新枠組み」で解説しています。既存記事「フィリピンにおける税務調査の概要」もあわせてご覧ください。
調査のプロセス:LOAからFDDAまで
税務調査は概ね次のような流れで進みます。まずLOA(またはeLA)の送達により調査が開始され、帳簿・証憑の提示を求められます。調査官が申告内容との相違を発見すると、Notice of Discrepancy(不一致通知)を経て、正式な追徴額を示すPAN(Preliminary Assessment Notice:暫定賦課決定通知)が発行されます。納税者はPANに対して原則15日以内に反論書を提出でき、これが認められなければFAN(Final Assessment Notice:最終賦課決定通知)が発行されます。FANに対しても不服がある場合は30日以内に異議申立てを行い、それでも解決しなければFDDA(Final Decision on Disputed Assessment)を経て租税裁判所(CTA)への提訴という流れになります。各段階で対応期限が定められているため、通知を受け取った時点でスケジュールを逆算して準備を進める必要があります。
指摘されやすい論点
税務調査で日系企業が指摘を受けやすいのは、申告・納付の期限徒過、公式領収書(OR)や請求書(Invoice)の記載不備、源泉徴収税率の適用誤り、フリンジベネフィット税(FBT)の課税漏れ、そして前述のクロスボーダー取引にかかる源泉税の判定誤りです。特にグループ間取引は金額が大きくなりやすく、否認された場合の追徴額も大きくなる傾向があります。また、第三者情報(取引先が提出したRELIEF/SLSPデータなど)と自社の申告内容に不一致があると、それ自体が調査の選定トリガーになることも知られています。
実際にどのような論点が指摘されているかは「税務調査で日系企業が実際に指摘された論点トップ10」で具体的に紹介します。
ペナルティはどう決まるか
追徴課税が発生した場合のペナルティは、加算税(過少申告・不申告に応じて25%または50%)、延滞利息、そして和解金(Compromise Penalty)の組み合わせで構成されます。調査対応の初期段階でどこまで争い、どこで和解するかの判断が、最終的な負担額を大きく左右します。
加算税・延滞利息・Compromise Penaltyの具体的な計算方法と減額交渉の実務は「税務ペナルティはいくらになるか」で解説します。
移転価格税制の実務
フィリピンの移転価格税制は、関連者間取引(グループ間の商流・役務提供・金銭消費貸借など)が独立企業間価格で行われているかを検証する制度です。一定の要件に該当する法人は、年次確定申告に添付する形でBIR Form 1709(Related Party Transaction Form、通称RPT Form)を提出する義務があります。分析手法としては、比較対象取引価格法(CUP)、再販売価格基準法、原価加算法、取引単位営業利益法(TNMM)、利益分割法といったOECD移転価格ガイドラインに準拠した手法が用いられ、実務ではTNMMが用いられることが多いのが実情です。
提出義務者と閾値
Form 1709の提出義務者は、大口納税者(Large Taxpayer)に指定されている法人、税制優遇を受けている法人、当期または過去2期に純損失を計上した法人、そしてこれらの法人と取引のある関連者です。加えて、より詳細な移転価格文書(TPD)の作成が必須になる閾値として、年間総売上1.5億ペソ超かつ関連者取引9,000万ペソ超(役員報酬・配当・支店送金を除く)、関連者への物品販売が6,000万ペソ超、またはサービス・利息・無形資産等の取引が1,500万ペソ超、という基準が設けられています。Form 1709の提出期限は、年次申告書(AITR)の添付書類の一つとして、実際の申告日から15日以内とするのが原則です。したがって、RMC 30-2026により2025年分AITRの申告期限が2026年5月15日まで延長された年は、実際の申告日を起点にForm 1709の提出期限も後ろ倒しになります。ベンチマーク分析は毎年財務データの更新が求められ、事業内容に大きな変化がなければ3年ごとにフルリフレッシュを行うのが一般的な実務です。
提出義務の判定フローと文書化の実務手順は「移転価格文書化の実務」で詳しく解説します。既存記事「フィリピン移転価格文書化の実務|BIR Form 1709の提出義務判定」もあわせてご参照ください。
年間の税務・会計コンプライアンスカレンダー
フィリピンの税務・会計実務は、月次・四半期・年次で提出物が異なります。代表的なものを整理すると以下のとおりです。申告・納付はeFPS(電子申告納税システム)またはeBIRFormsを通じて行うのが原則です。
| 頻度 | 主な提出物 | 内容 |
|---|---|---|
| 月次 | BIR Form 0619-E、1601-C | 源泉税(EWT・給与)の納付 |
| 四半期 | BIR Form 1601-EQ、2550Q、1702Q | 源泉税・VAT・法人税の四半期申告 |
| 年次 | BIR Form 1702-RT、AFS・GIS、alphalist(1604-E/1604-C) | 年次確定申告、監査済財務諸表・一般情報シートのSEC/BIR提出 |
年次の申告期限は毎年固定ではなく、年によってBIRが延長措置を発表することがあります。実際に2025年分の年次確定申告(AITR)は当初期限の4月15日から5月15日への延長が発表されました。社内スケジュールを組む際は「延長がある前提」で余裕を持たせておくことをおすすめします。なお、以前は年次登録料(BIR Form 0605・500ペソ)の納付が求められていましたが、EOPT関連の規則見直しによって廃止されており、登録関連の実務負担も年々変化している点に留意してください。
月次・四半期・年次の全提出物を一覧化したカレンダーは「フィリピンの税務・会計 申告期限カレンダー」で公開しています。既存記事「フィリピンの2024年監査済み財務諸表(AFS)および一般情報シート(GIS)の提出」もあわせてご参照ください。
また、地方税・事業許可の更新は毎年1月が更新期限の目安になるため、国税とは別のスケジュール管理が必要です。会計システムについても、BIR承認済みのCAS(Computerized Accounting System)またはLoose-leaf Books of Accountsのいずれかを利用する必要があり、既存記事「フィリピンにおけるCAS/EISの概要」で登録実務を解説しています。
2026年の主要な制度改正まとめ【随時更新】
2025〜2026年にかけて、日系企業の実務に影響する制度改正が相次いでいます。要点を一覧にまとめました(各項目の詳細は個別記事で解説します)。
- CREATE MORE法(RA 12066):2024年11月施行。EDR適用RBEの法人税率を20%に引き下げ、電力費の追加控除を50%から100%に拡大。地方税もITH/EDR期間中は総所得の最大2%(RBELT)に一本化される。また、EDR適用RBEはITH期間中に生じたNOLCOをITH最終年度から5年間繰り越せる特例が新設された(この5年繰越はEDR適用RBE限定で、非登録の内国法人は原則3年のまま)。詳細は「CREATE MORE法で優遇税制はこう変わったか」をご覧ください。
- PEZA国内販売VAT(RR 9-2025・RR 1-2026):RBEの国内販売が一律12%課税に。当初は買主側に納付義務が移ったが、2026年2月16日付で発出されたRR 1-2026で国内市場企業(DME)は通常のVAT申告に戻れるよう見直された。請求書へのVAT内訳表示のシステム改修期限は2026年12月31日。詳細はこちら。
- BIR税務調査の新枠組み(RMO 1-2026ほか):Single-Instance Auditへの移行。1課税年度・1eLAが原則に。
- クロスボーダー役務課税の明確化(RMC 24-2026):日本本社への支払いの源泉課税基準を整理し、立証責任の所在を明確化。
- 電子インボイス義務化(RR 11-2025・RR 26-2025):対象企業のシステム対応期限を2026年12月31日に延長。JSON/XML等の構造化データでの発行が求められる。
- 新・日比租税条約:2026年5月署名。配当・使用料の源泉税率を見直し。発効時期は両国の国内手続完了後。
- グローバル・ミニマム課税(Pillar 2):2026年9月時点で法律は未成立。財務省・BIRの技術ワーキンググループが制度設計を検討中で、PEZA優遇との整合性が今後の論点。
支店・現地法人・進出形態と税務の違い
フィリピン進出の形態としては現地法人(Subsidiary)、支店(Branch)、駐在員事務所(Representative Office)が代表的ですが、税務上大きく異なるのが支店です。支店が本国の本店に利益を送金する際には、支店利益送金税(BPRT: Branch Profit Remittance Tax)として15%が課されます。一方、現地法人が親会社に配当を送る場合は、租税条約適用後の軽減された配当源泉税率が適用されます。どちらが有利かは、送金頻度や条約適用の可否、資本構成によって変わるため、進出形態を決める段階で税務シミュレーションをしておくことをおすすめします。
なお、配当や資本金の払い戻しとして資金を国外に送金する際には、事前にフィリピン中央銀行(BSP)への外国投資登録(Bangko Sentral Registration)が必要になる場合があります。この登録を怠ると、いざ送金しようとした際に手続きが滞り、資金化のタイミングを逃すことにもなりかねません。税務上の有利不利だけでなく、資金還流の実務も含めて進出形態を検討することが重要です。
支店利益送金税と配当源泉税の実効負担を比較したシミュレーションは「フィリピン支店 vs 現地法人|税負担はどちらが軽いか」で解説します。既存記事「日本企業のフィリピン進出戦略: 成功のカギとリスク管理」もあわせてご参照ください。
会計事務所・税務顧問はどう選び、費用はいくらか
フィリピンでの税務・会計実務は日本の制度と前提が異なる部分が多く、現地の会計事務所や税務顧問と組んで進めるのが一般的です。選定にあたっては、日本語対応の実体(実際に誰が対応するか)、有資格者(CPA・CTT等)の人数、税務調査への同席実績、PEZA案件の経験、レポーティングの言語と締め日、料金体系の透明性などが比較のポイントになります。記帳・申告を内製化するか外部に委託するかは、社内の経理人員の確保状況や、追徴・ペナルティが発生した場合のリスクコストも含めて判断するのがおすすめです。
比較の具体的な軸は「フィリピンの会計事務所・税務顧問はどう選ぶか」で、費用相場や内製との損益分岐点は「記帳代行・税務顧問の費用相場」でそれぞれ解説します。
よくある質問
フィリピンの法人税率は何%ですか?
原則25%です。ただし課税所得500万ペソ以下かつ総資産1億ペソ以下(土地を除く)の内国法人は20%、CREATE MORE法によるEDR適用RBEも20%が適用されます。詳しくは本記事「法人税とVATの基礎知識」をご参照ください。
フィリピンのVATは何%で、登録義務はいつ発生しますか?
標準税率は12%です。年間の売上・受取額が300万ペソを超えると登録義務が発生します。超えない場合はパーセンテージ税の対象です。
VATのゼロレートと免税はどう違いますか?
ゼロレートは売上に課税されない一方で仕入税額の控除・還付が可能ですが、免税取引は仕入税額そのものが控除できません。輸出企業やPEZA登録企業の取引ではこの区別を誤ると還付できるはずの税額を取りこぼします。
フィリピンの会計年度はいつからいつまでですか?
暦年(1月〜12月)を採用する企業が多いですが、会計期間は各社が定款・SEC登録時に選択でき、非暦年(Fiscal Year)を採用することも可能です。いずれの場合も申告期限は選択した会計期間の終了後何か月以内という形で定められます。
日本本社への経営指導料・技術支援料には源泉税がかかりますか?
取引の内容次第です。「クロスボーダーだから一律課税」ではなく、経済的便益の発生地で判断されるため、契約書・居住者証明書・送金証明などの整備が重要になります。詳細は「日本本社への経営指導料・技術支援料は源泉課税されるか」をご覧ください。
BIRから税務調査の通知が来たらどうすればよいですか?
まず受け取った通知が正式なLOA(またはeLA)かを確認し、対象税目・対象期間を把握します。2026年からはSingle-Instance Auditの枠組みで1年度につき原則1件のeLAで全税目がまとめて調査対象になるため、対象範囲を正確に把握したうえで、書類の準備状況を棚卸しすることをおすすめします。
移転価格税制の対象になるのはどんな企業ですか?
大口納税者、税制優遇を受けている企業、直近で純損失を計上した企業、およびこれらと取引のある関連者が、BIR Form 1709の提出義務者に該当します。加えて一定の取引金額を超えると、より詳細な移転価格文書の作成が必要になります。
フィリピン進出は現地法人と支店、どちらが税務上有利ですか?
一概にはいえません。支店は利益送金時に15%のBPRTが課される一方、現地法人は租税条約適用後の配当源泉税率(新条約では持分要件により5%〜15%)が適用されます。送金頻度や資本構成によって有利不利が変わるため、進出形態を決める段階でのシミュレーションをおすすめします。
フィリピンでVATの申告はどのくらいの頻度で行いますか?
四半期ごとにBIR Form 2550Qで申告・納付します。輸出取引が多い企業は、還付・繰越の対象となるInput VATの管理も四半期単位で行うのが実務上効率的です。
PEZA登録企業は今後もVAT・法人税の優遇を維持できますか?
ITH期間や5%GIE/EDRの適用期間中は優遇が維持されますが、2025〜2026年の一連の改正で国内販売にかかるVATの扱いが変更されているため、輸出比率や取引形態によっては従来より優遇の範囲が狭まるケースがあります(詳細はPEZA国内販売VAT12%と買主納付を参照)。自社の取引実態を毎年見直すことをおすすめします。
まとめ・専門家への相談
フィリピンの税制は制度改正のスピードが速く、BIRからの通達(RR・RMC・RMO)は年間を通じて頻繁に発出されます。本記事は全体像の整理を目的としていますが、実際の申告・調査対応は個社の状況によって判断が分かれるため、具体的な論点は専門家への相談をおすすめします。カメリアコンサルティングでは、フィリピン現地法人の会計・税務顧問、PEZA/BOI関連の税務コンプライアンス、税務調査対応まで一貫してご支援しています。
執筆・監修:日比野和樹
