【2026年5月署名】新・日比租税条約の全変更点|配当5%の適用要件・使用料一律10%・PPT導入で日系企業の源泉税はこう変わる

2026年5月28日、日本とフィリピンは東京で新しい租税条約に署名しました。1980年署名・2008年改正議定書以来、実に46年ぶりの全面改定です。配当の源泉税率は持分要件に応じて5%/10%/15%の3段階に変わり、使用料(ロイヤルティ)は10%に一本化されます。あわせてPPT(主要目的テスト)という新しい否認ルールも導入されました。ただし新条約はまだ発効しておらず、両国の国内手続き(日本では国会承認)を経て発効する見込みです。本記事では、何がいつからどう変わるのか、日系企業が今から準備すべきことを整理します。

この記事の要点

  • 配当の源泉税は、持分90%以上・6か月保有で5%、持分10%以上・6か月保有で10%、それ以外は15%の3段階に変更
  • 使用料(ロイヤルティ)は現行の10%/15%(映画・放送用フィルム等は15%)から一律10%に統一
  • 利子は政府機関等への支払いが免税、それ以外は10%(現行の枠組みと大きな変更はない)
  • PPT(主要目的テスト)が導入され、条約適用を主目的とした取引には特典が否認される
  • 発効には両国の国内手続き(日本は国会承認)と外交上の公文交換が必要で、交換の日から30日後に発効する見込み

最終更新日:2026年9月。発効時期が確定次第、随時更新します。

フィリピンの税務全体の位置づけについては「フィリピンの税務完全ガイド」もあわせてご参照ください。

目次

なぜ今、条約が全面改定されたのか

現行の日比租税条約は1980年に署名され、2008年の改正議定書で一部が更新されたものの、基本的な枠組みは長年変わっていませんでした。この間、日本はOECD/G20主導のBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを踏まえ、主要な租税条約に主要目的テスト(PPT)などの濫用防止規定を順次組み込んでおり、日比租税条約もこの流れに合わせて全面的に刷新されました。財務省の発表によれば、今回の改定は二重課税の除去に加えて、脱税・租税回避の防止を明確に条約の目的に位置づけている点が特徴です。フィリピンに進出する日系企業にとっては、源泉税率そのものの変更以上に、PPTという新しい「入口の審査」が加わったことの実務的な影響が大きいといえます。

配当の源泉税はどう変わるか(5%/10%/15%の3段階)

現行条約では、配当の源泉税率は一定の持分要件を満たす場合に10%、それ以外は15%という2段階でした。新条約ではこれが3段階に細分化され、持分要件がより厳格になった層と、より有利になった層の両方が生まれます。

区分 現行条約 新条約
持分90%以上を6か月超保有 10% 5%
持分10%以上を6か月超保有 10% 10%
上記以外 15% 15%

日系親会社がフィリピン子会社の株式をほぼ全株(90%以上)保有し、かつ6か月超の保有期間の要件を満たす場合、配当の源泉税は現行の10%から5%へと軽減されます。一方、持分10%以上90%未満のケースでは税率は10%のまま変わらず、少数持分の場合は15%のままです。したがって、100%子会社を通じてフィリピンに進出している日系企業の多くは、新条約発効後に配当送金の実効税率が下がる可能性が高い一方、合弁形態でフィリピン側パートナーと持分を分け合っている場合は恩恵が及ばないケースもある点に注意が必要です。持分比率と保有期間の要件(6か月超)を満たしているかどうかは、配当決議の前に必ず確認しておくべきポイントになります。

使用料(ロイヤルティ)は一律10%に統一

現行条約では、使用料の源泉税率は原則10%ですが、映画フィルムやラジオ・テレビ放送用テープの使用料に限り15%が適用されるという例外がありました。新条約ではこの区分が廃止され、使用料は種類を問わず一律10%に統一されます。日本本社からフィリピン子会社へ技術ライセンス料やブランド使用料、ソフトウェアライセンス料を請求している日系製造業・BPO企業にとっては、税率自体は据え置き(10%)となるケースが大半ですが、コンテンツ関連の使用料を扱う一部の企業では実質的な減税になります。

利子とPPT(主要目的テスト)導入の影響

所得区分 現行条約 新条約
利子(政府・中央銀行等が受け取る場合) 免税 免税(維持)
利子(それ以外) 10% 10%(維持)
使用料(ロイヤルティ) 10%/映画・放送用は15% 一律10%

利子の源泉税については、政府機関や中央銀行が受け取る利子を免税とする一方、それ以外は10%とする枠組みが維持されており、現行条約からの大きな変更はありません。むしろ実務上の影響が大きいのは、新条約で導入されるPPT(Principal Purpose Test:主要目的テスト)です。PPTは、ある取引や仕組みを行う主要な目的の一つが条約上の特典(軽減税率の適用など)を得ることであったと合理的に認められる場合、税務当局がその特典の適用を否認できるという包括的な濫用防止規定です。

これまでは、RFC(Request for Confirmation)やTTRA(Tax Treaty Relief Application)の審査において形式的な要件(居住者証明書の提出など)を満たせば軽減税率が認められるケースが中心でしたが、PPT導入後は、取引の実質・目的そのものが審査対象になり得ます。たとえば、条約特典の適用のためだけに設立されたペーパーカンパニーを経由する取引などは、PPTにより否認されるリスクが高まります。日系企業グループの中には、グループ内の資金調達やライセンス保有を特定の国の関連会社に集約している例もあり、その配置の経済合理性を説明できるようにしておくことが今後より重要になります。

発効はいつになるか

新条約は署名された時点ではまだ効力を持ちません。今後、日本では国会の承認、フィリピンでは上院の批准という各国の国内手続きを経たうえで、両国政府が承認を通知する外交上の公文を交換し、その交換の日から30日後に発効するのが通常の流れです。現時点(2026年9月)では発効日は確定しておらず、国内手続きの進み方によっては発効が2027年にずれ込む可能性もあります。発効後も、源泉徴収に関する規定は多くの租税条約で「発効年の翌年1月1日以降に支払われる所得」から適用されるのが一般的なパターンのため、実際に新税率が適用されるタイミングは発効日そのものよりも後になる可能性がある点に留意してください。この点は発効が正式に決まり次第、本記事で更新します。

今回の改定では、税率変更やPPT導入に加えて、二国間の相互協議(MAP)が2年以内にまとまらない場合に強制的な仲裁手続きに移行する仕組みも新たに導入されています。これは、税務当局間の見解の相違が長期化して二重課税が解消されないまま放置される事態を防ぐための規定で、クロスボーダー取引を行う企業にとっては係争が長期化した場合の「出口」が用意されたという意味を持ちます。

日系企業が今から準備しておくべきこと

新条約はまだ発効していないため、現時点では現行条約に基づく源泉税率(配当10%/15%、使用料10%/15%)が適用されます。ただし、発効を見据えて今から準備しておくとよい点がいくつかあります。第一に、フィリピン子会社に対する自社の持分比率と保有期間を確認し、新条約下でどの税率区分に該当するかを試算しておくことです。第二に、RFC・TTRAの申請実務や居住者証明書(Tax Residency Certificate)の取得・更新のスケジュールを、既存の実務フローの中で確認しておくことです。第三に、グループ内の資金調達・ライセンス保有の配置について、PPT導入後を見据えて経済合理性を説明できる資料を整理しておくことです。

租税条約適用の申請実務(RFC・TTRAの使い分けと必要書類)については、既存記事「フィリピン・日比租税条約の申請方法を徹底解説」で詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。また、源泉税率の全体像(EWT・FWTを含む一覧表)は別記事にまとめる予定です。

フィリピン進出の形態(現地法人か支店か)によって、配当課税と支店利益送金税(BPRT)のどちらが有利かは変わってきます。新条約下での配当源泉税率も踏まえた比較は、別記事「フィリピン支店 vs 現地法人|税負担はどちらが軽いか」で解説します。

よくある質問

新しい日比租税条約はいつから適用されますか?

2026年9月時点では未発効です。両国の国内手続き(日本は国会承認、フィリピンは上院批准)を経て外交上の公文を交換し、その30日後に発効する見込みですが、具体的な日付はまだ確定していません。

配当の源泉税が5%になるのはどんな場合ですか?

フィリピン子会社の議決権株式の90%以上を、配当の支払いが決定される日の直前6か月を通じて保有している場合です。90%未満10%以上の保有では10%、それ未満では15%が適用されます。

現行条約の下で今すぐ配当を出す場合、税率はどうなりますか?

新条約が発効するまでは現行条約(10%または15%)が適用されます。新条約の税率を前提に配当タイミングを計画する場合は、発効日と適用開始時期の両方を確認する必要があります。

PPTが導入されると、これまで認められていたTTRAの適用が否認されることはありますか?

取引の主要な目的が条約特典の取得にあると認められる場合、理論上は否認され得ます。ただし個別の取引がPPTに抵触するかどうかは事実関係次第であり、経済合理性を示す資料の整備が重要になります。

新条約が発効したら、既存の条約適用(RFC・TTRA承認)はどうなりますか?

既存の承認が発効と同時に自動的に無効になるわけではありませんが、新条約下の税率・要件で改めて申請し直す必要が生じるのが一般的です。発効時期が近づいた段階で、自社の適用状況を棚卸ししておくことをおすすめします。

まとめ・専門家への相談

新・日比租税条約は、配当源泉税の軽減という日系企業にとってプラスの変更と、PPT導入という審査の厳格化という2つの側面を持つ改正です。発効時期や適用開始のタイミングは今後の両国の手続き次第であり、本記事は発効の進捗に合わせて随時更新します。自社の持分構成やグループ内取引が新条約下でどう扱われるかについては、個別の状況に応じた判断が必要になるため、具体的な適用可否は専門家への相談をおすすめします。カメリアコンサルティングでは、フィリピン進出企業の租税条約適用申請(RFC・TTRA)や配当・ロイヤルティ送金にかかる税務相談にも対応しています。

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執筆・監修:日比野和樹

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