【徹底比較】フィリピン支店 vs 現地法人|支店利益送金税(BPRT)15%と配当源泉税で、税負担はどちらが軽いか【2026年版】

フィリピンに進出する際、現地法人(Subsidiary)と支店(Branch)のどちらを選ぶかは、責任範囲だけでなく税負担にも大きく影響します。支店の利益送金には統計上15%の支店利益送金税(BPRT)が課されますが、日比租税条約に付属する議定書(Protocol)により10%を上限とする軽減が明記されています。現地法人からの配当も、原則25%の源泉税に対して日比租税条約で10%(親子間要件を満たす場合)または15%(それ以外の場合)まで軽減され、新条約発効後は持分90%以上を6か月超保有する場合に5%まで軽減される予定です。つまり現行条約の下では、条件を満たせば支店・現地法人ともにフィリピン国内の実効負担はほぼ同水準(約32.5%)になり、単純に「現地法人の方が有利」とは言い切れません。差がつくのは、日本本社側の課税の仕組み(本支店合算主義+外国税額控除 vs 外国子会社配当益金不算入制度)や、将来の新条約発効後の配当税率まで含めた総合判断です。本記事では、具体的な数値シミュレーションを交えて比較します。

この記事の要点

  • 法人税率自体は、支店(外国法人扱い)・現地法人(内国法人)とも原則25%で共通
  • 支店の利益送金には統計上15%のBPRT(支店利益送金税)が課されるが、日比租税条約に付属する議定書(Protocol)により10%を上限とする軽減が明記されている
  • 現地法人の配当には原則25%の源泉税がかかるが、日比租税条約で10%(親子間要件を満たす場合、議決権株式10%以上を6か月以上保有)または15%(それ以外の場合)まで軽減され、新条約発効後は持分90%以上・6か月超保有で5%まで軽減される予定
  • 現行条約の条件を満たせば、支店(BPRT10%)と現地法人(配当10%)のフィリピン国内実効負担はいずれも約32.5%とほぼ同水準になる
  • 日本本社側では、支店利益は本支店合算主義によりFTC(外国税額控除、限度超過分は繰越)で調整されるのに対し、現地法人の配当は95%が益金不算入となるが、配当にかかる外国源泉税はFTCの対象にならない点に留意が必要
  • PEZA登録の支店は、登録事業から生じる利益の国外送金についてBPRTが免除される

最終更新日:2026年9月。新・日比租税条約の発効時期が確定次第、試算を更新します。

フィリピンの税務全体の位置づけについては「フィリピンの税務完全ガイド」もあわせてご参照ください。

目次

支店と現地法人、法的な違いのおさらい

支店(Branch)は日本本社の一部門としてフィリピンで事業を行う形態で、法人格は本社と同一です。そのため、フィリピン支店が負った債務・訴訟リスクは、理論上は日本本社にも及びます。一方、現地法人(Subsidiary)はフィリピン国内で新たに設立される独立した法人格を持つ会社で、原則として親会社の責任は出資額の範囲に限定されます。この責任範囲の違いは、税務上の有利不利とは別に、進出形態を決める際の重要な判断材料になります。

法人税率は同じ、差がつくのは利益送金の場面

法人所得税(CIT)の税率自体は、支店(外国法人=Resident Foreign Corporationとして課税)・現地法人(内国法人)のいずれも、フィリピン国内源泉所得に対して原則25%が適用され、この点に大きな差はありません(一定の要件を満たす小規模な内国法人には20%の軽減税率がありますが、これは現地法人にのみ適用され、支店には適用されません)。差がつくのは、税引後利益を日本本社に送金する場面です。

支店の場合、税引後利益を本国へ送金する際に支店利益送金税(BPRT:Branch Profit Remittance Tax)が統計上15%課されます。日比租税条約そのもの(配当・利子・使用料を定める条文)には支店送金を直接対象とした条文はありませんが、条約に付属する議定書(Protocol)において、フィリピンが送金される支店利益に対して課す追加的な税は「送金される部分の金額の10%を超えないものとする」と明記されています(日本国財務省が公表する条約英文サマリーで確認)。したがって、日本の親会社が条約特典を受けられる場合、BPRTは実質的に10%まで軽減されます。実務上は、軽減税率の適用にあたってBIRへの租税条約適用確認(Request for Confirmation/Tax Treaty Relief Application:TTRA、RMO 14-2021に基づく)の手続きが必要になる点に留意してください。

一方、現地法人からの配当には原則25%の源泉税がかかりますが、日比租税条約の適用により、議決権株式の10%以上を配当支払前6か月以上保有する等の要件を満たす親子間配当は10%、それ以外の場合は15%まで軽減されます。新条約発効後は、持分90%以上を6か月超保有する場合にさらに5%まで軽減される予定です(新条約は署名済み・未発効で、発効時期は今後の手続き次第です)。

つまり、現行条約の下で軽減税率の要件を満たせる場合、支店のBPRT(10%)と現地法人の親子間配当(10%)は同じ税率になり、フィリピン国内だけで見た実効負担に差はありません。差がつくのは、親子間配当の要件(議決権株式10%以上を6か月以上保有)を満たせない場合(この場合は現地法人の方が15%となり支店より不利)と、新条約発効後に持分90%以上・6か月超保有の要件を満たせる場合(この場合は現地法人が5%となり支店より有利)です。

形態 法人税 送金時の課税 実効負担(概算)
支店(条約特典なし・統計上) 25% BPRT 15% 約36.25%
支店(日比租税条約の議定書適用) 25% BPRT 10% 約32.5%
現地法人(配当・条約の一般税率、親子間要件未達) 25% 配当源泉税15% 約36.25%
現地法人(配当・現行条約の親子間税率) 25% 配当源泉税10% 約32.5%
現地法人(配当・新条約発効後、持分90%以上6か月保有) 25% 配当源泉税5% 約28.75%

たとえば、課税所得5,000万ペソの場合で試算すると、法人税25%控除後の税引後利益は3,750万ペソです。支店が条約特典(BPRT10%)を受けられる場合、送金額は約3,375万ペソ(実効負担率約32.5%)になります。現地法人が親子間配当の要件を満たして条約税率10%を適用できる場合も、送金額は同じく約3,375万ペソ(実効負担率約32.5%)となり、フィリピン国内だけで見ると両者に差はありません。親子間要件を満たせず配当源泉税が15%になる場合は送金額が約3,188万ペソ(実効負担率約36.25%)まで下がり、支店より不利になります。逆に、新・日比租税条約発効後に持分90%以上・6か月超保有の要件を満たして配当源泉税5%を適用できれば、送金額は約3,563万ペソ(実効負担率約28.75%)まで改善し、支店より有利になります。新・日比租税条約の税率区分の詳細は「新・日比租税条約の全変更点」で解説しています。

日本本社側まで含めるとどう変わるか(本支店合算主義と外国子会社配当益金不算入制度)

フィリピン国内の実効負担が現行条約下でほぼ拮抗する以上、日本本社側の課税の仕組みの違いが、グループ全体の実際の手取りを左右する重要な要素になります。支店と現地法人では、日本側での課税タイミング・方法が根本的に異なります。

支店:本支店合算主義と外国税額控除(FTC)

支店はフィリピン支店も日本本社も同一の法人格であるため、フィリピン支店の所得はその発生した事業年度に、本支店合算主義により日本本社の全世界所得にそのまま合算されます。送金の有無にかかわらず、フィリピンで稼得した年度の日本の確定申告に含めて課税される点が現地法人との大きな違いで、配当のように送金するタイミングを選んで課税時期を調整する(繰り延べる)余地がありません。

フィリピンで納付した法人税・BPRTについては、二重課税を排除するために外国税額控除(FTC)を適用できますが、控除できる金額には上限があります。FTCの控除限度額は「日本の法人税額×(国外所得金額/全世界所得金額)」で計算され、この限度額を超えるフィリピンでの納税額は、当期の日本の税額からは控除しきれず、3年間の繰越控除の対象になるにとどまります(繰越期間内に控除しきれなければ切り捨てられます)。

日本の実効法人税率(東京の大企業の場合、2025〜2026年度で概ね30.62%、2027年度以降は防衛特別法人税の上乗せにより約31.52%)と、BPRTが条約税率10%まで軽減された場合のフィリピン側実効負担(約32.5%)を比べると、その差はわずか1〜2ポイント程度まで縮まります。この場合、フィリピンで納付した税額のほとんどはFTCで日本の税額から控除でき、日本側で追加に納付が生じる部分はごくわずか、あるいはゼロになります(控除しきれないわずかな超過分は3年間の繰越控除の対象となるにとどまります)。

現地法人:外国子会社配当益金不算入制度と、配当源泉税の非控除性

一方、現地法人からの配当については、日本の外国子会社配当益金不算入制度(法人税法第23条の2)が適用できます。日本の親会社が、配当の支払義務確定日以前6か月以上継続して発行済株式の25%以上を保有している外国子会社からの配当については、その95%が日本の益金に算入されません(残り5%相当額は、配当に紐づく費用の概算控除として課税対象になります)。

ここで実務上見落とされがちなのが、この95%益金不算入の適用を受ける配当について、フィリピンで課された配当源泉税(現行条約で10%、新条約で5%)は、日本側の外国税額控除の対象にできず、損金算入もできない点です。つまり、配当にかかるフィリピンの源泉税は、支店のBPRTのようにFTCで調整されることのない、純粋な追加コストとして確定してしまいます。残りの5%相当額(益金算入部分)には日本の実効税率が課されるため、配当額に対してごく小さいながらも日本側で追加の納税が生じます。

グループ全体で見た実効負担のイメージ

以上を踏まえると、現行の日比租税条約の下で軽減税率の要件を双方が満たせる場合、フィリピン国内の実効負担は支店・現地法人ともに約32.5%で並びますが、日本側まで含めた現金ベースの負担では、意外にも支店の方がわずかに軽くなる場合があります。支店はフィリピンでの納税額のほとんどをFTCで日本の税額から控除でき、日本側での追加負担がほぼ生じないのに対し、現地法人は配当にかかる源泉税がFTCの対象外であるため、その分がそのまま追加コストとして残るためです。もっとも、この差はわずか1%前後にとどまり、かつ支店には送金タイミングを選べない(利益が発生した年度に強制的に日本の課税所得へ合算される)という制約があります。現地法人であれば、利益を内部留保としてフィリピン国内に留め、資金需要に応じて配当時期を選べる繰り延べの柔軟性を持てるため、単年度の税負担の大小だけでなく、資金計画上の柔軟性も含めた総合判断が必要です。

さらに、新・日比租税条約が発効し、持分90%以上を6か月超保有するなどの要件を満たして配当源泉税が5%まで軽減されれば、現地法人ルートのフィリピン国内負担は28.75%まで下がり、支店(BPRT10%、約32.5%)より明確に有利になります(新条約がBPRTの税率にも影響するかどうかは、本記事執筆時点では確認できていません)。したがって、現時点で「現地法人が常に有利」とは言い切れないものの、新条約の発効を見据えると、中長期的には現地法人が優位になる可能性が高いといえます。実際の判断にあたっては、グループの他の所得状況・外国税額控除の余力・配当政策の方針なども踏まえた、税務専門家によるシミュレーションをおすすめします。

PEZA登録企業の場合はどうなるか

ここまでは非登録の一般企業を前提とした比較ですが、PEZA・BOI等に登録されたRBE(Registered Business Enterprise)の場合は事情が変わります。PEZA登録の支店は、登録事業(Registered Activity)から生じる利益を国外へ送金する場合、その送金についてBPRTが免除される扱いになっています。したがって、輸出型の製造業などでPEZA登録を予定している場合は、支店・現地法人のどちらを選んでも、登録事業から生じる利益の送金自体には送金税がかからない可能性が高く、上記の比較がそのまま当てはまらない点に注意が必要です。PEZA登録後の税務実務(ITHから5%SCITへの移行、年次報告義務等)については別記事で扱う予定です。

資金還流の実務上の注意点

税務上の有利不利に加えて、実務上は資金還流の手続きも重要です。配当や資本金の払い戻しとして資金を国外に送金する際には、事前にフィリピン中央銀行(BSP)への外国投資登録(Bangko Sentral Registration)が必要になる場合があります。この登録を怠ると、実際に送金しようとした段階で手続きが滞り、資金化のタイミングを逃すことにもなりかねません。進出形態を検討する段階で、税務シミュレーションとあわせて資金還流の実務フローも確認しておくことをおすすめします。進出戦略全般の検討ポイントについては、既存記事「日本企業のフィリピン進出戦略:成功のカギとリスク管理」もあわせてご参照ください。

よくある質問

支店と現地法人、結局どちらを選べばよいですか?

現行の日比租税条約の下で軽減税率の要件を満たせる場合、支店(BPRT10%)と現地法人(配当10%)のフィリピン国内の実効負担はほぼ同水準になります。日本側まで含めた現金ベースの負担では支店がわずかに有利になる場合もありますが、現地法人には配当時期を選べる繰り延べの柔軟性があり、新・日比租税条約発効後は配当源泉税が5%まで軽減される見込みです(前述の「日本本社側まで含めるとどう変わるか」もご参照ください)。責任範囲・設立手続きの簡便さ・PEZA登録の有無なども含めた総合判断が必要です。

支店の場合、日本側では二重課税されないのですか?

外国税額控除(FTC)により調整されます。フィリピン側の実効負担が条約税率(BPRT10%適用時で約32.5%)まで下がれば、日本の実効税率(約30.62%)との差はわずかになり、多くの場合フィリピンでの納税額のほとんどをFTCで日本の税額から控除できます。ただし、控除しきれない差額が生じた場合は3年間の繰越控除の対象となるにとどまり、繰越期間内に使い切れなければ切り捨てられます。

現地法人からの配当は日本でどのくらい課税されますか?

持分25%以上を配当の支払義務確定日以前6か月以上継続保有している等の要件を満たせば、外国子会社配当益金不算入制度により配当額の95%が益金不算入となり、残り5%相当額に日本の法人税率が課される程度にとどまります。ただし、配当にかかるフィリピンの源泉税(現行条約で10%、新条約で5%)は日本の外国税額控除の対象にならず、損金算入もできないため、この部分は調整の効かない純粋なコストとして残る点に注意が必要です。

支店から現地法人への転換は後からできますか?事例はありますか?

SEC(証券取引委員会)が定める「ライセンス転換(Conversion of License)」の手続きは、代表事務所(Representative Office)と支店(Branch Office)など、外国法人としてのライセンス区分間の切り替えを対象とするもので、支店を現地法人(内国法人)に転換する手続きとしては用意されていません。実務上「支店から現地法人への転換」を行う場合は、新たに現地法人をSECに設立したうえで、既存の支店についてはBIRの税務クリアランス(清算に伴う税務調査を含む)を経て別途ライセンスを返上・撤退させるという、実質的に2つの独立した手続きを並行して進める形になります。単純な名義変更のような「転換」ではなく、資産・契約・従業員・許認可の移管を伴う相応に手間のかかるプロセスになる点に注意が必要です。実際に転換を検討する場合は、SEC・BIR双方の手続きに精通した専門家に個別に相談することを強くおすすめします。

日比租税条約の10%・5%の軽減税率はどんな要件がありますか?

配当については、現行条約で議決権株式の10%以上を6か月以上保有する等の要件を満たす場合に10%(満たさない場合は15%)、新条約発効後は持分90%以上を6か月超保有する場合に5%が適用されます。一方、支店のBPRTについては、条約に付属する議定書(Protocol)により10%が上限と定められており、配当のような持分要件はなく、日本の親会社が条約特典を受けられる(TTRA等の手続きを経る)ことが主な条件になります。

PEZA登録を予定していない一般企業の場合、支店にするメリットはありますか?

日比租税条約の適用によりBPRTは10%まで軽減できるため、条約特典を受けられる日本本社であれば、フィリピン国内の実効負担は現地法人(配当10%達成時)とほぼ同水準になります。むしろ、配当の親子間要件(議決権株式10%以上を6か月以上保有)を満たせない現地法人よりも、支店の方が確実に10%を適用できる分、有利になるケースもあります。一方で、支店には送金タイミングを選べない、責任が本社に及ぶといった制約もあるため、総合的な判断が必要です。

まとめ・専門家への相談

支店と現地法人の税負担比較は、フィリピン国内の法人税率だけを見れば差がなく、利益送金段階の税率も、条約特典の要件を満たせれば支店(BPRT10%)・現地法人(配当10%)でほぼ並びます。差がつくのは、日本本社側の外国税額控除(支店)と外国子会社配当益金不算入制度(現地法人、ただし配当源泉税は控除対象外)という課税の仕組みの違い、送金タイミングの柔軟性、そして新・日比租税条約発効後の配当税率5%という将来の変化です。PEZA登録を予定している場合はBPRT免除の扱いもあるため、比較の前提がさらに変わります。自社の資本構成・送金頻度・PEZA登録の有無・グループ全体の税額控除余力を踏まえた実効負担のシミュレーションは、個別の状況に応じた計算が必要になるため、専門家への相談をおすすめします。カメリアコンサルティングでは、進出形態の選定段階での税務シミュレーション・資金還流実務の支援にも対応しています。

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執筆・監修:日比野和樹

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