フィリピンのグローバル・ミニマム課税(Pillar 2)2026年9月時点の実像|PEZAのITH・5%SCITは15%フロアで無効化されるのか

2026年9月時点で、フィリピンのグローバル・ミニマム課税(GMT/OECD Pillar Two)は「法律としてはまだ成立していない」段階にあります。財務省(DOF)・BIR・FIRB(Fiscal Incentives Review Board)が「適格国内ミニマム上乗せ課税(QDMTT)」の制度設計を検討している最中で、PEZA・BOIの優遇税制との整合性が今後の最大の論点です。本記事では、制度の仕組みと現時点の状況、そしてPEZAのITH(法人税免除)・5%SCITが実質的に無効化されるのかを整理します。

この記事の要点

  • フィリピンのQDMTT(適格国内ミニマム上乗せ課税)は2026年9月時点で未成立。財務省・FIRB・BIRが草案を検討中
  • 対象は連結グループ売上高が7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループのみ。日系企業の多くを占める中小規模の単独進出企業は対象外
  • PEZA・BOIのITH・5%SCITで実効税率が15%を下回る場合、その差額を「上乗せ課税」として徴収される仕組みのため、対象企業では従来型の優遇の節税効果が事実上打ち消される可能性がある
  • この打ち消しを避けるため、実体を伴う支出に連動した「適格税額控除(QRTC)」型への優遇再設計が国際的な潮流になっている
  • BIRは法律成立に先立ち、要員育成・様式整備・組織体制の準備を先行して進めている

最終更新日:2026年9月。法案の審議状況に応じて随時更新します。

フィリピンの税務全体の位置づけについては「フィリピンの税務完全ガイド」もあわせてご参照ください。

目次

そもそもグローバル・ミニマム課税(Pillar Two)とは何か

OECD/G20が主導するBEPS(税源浸食と利益移転)対策の「第2の柱(Pillar Two)」は、大規模多国籍企業グループについて、各国での実効税率(ETR)を最低15%まで引き上げることを目的とした国際的な課税枠組みです。対象となるのは、直近4事業年度のうち2年以上で連結グループの年間売上高が7.5億ユーロ(約1,200億円規模)以上の多国籍企業グループです。ある国での実効税率が15%を下回る場合、その差分を「上乗せ課税(Top-up Tax)」として、(1)親会社所在地国が徴収するIIR(Income Inclusion Rule)、(2)その他の関連会社所在地国が徴収するUTPR(Undertaxed Profits Rule)、(3)所得が生じた国自身が徴収するQDMTT(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)のいずれかの形で徴収されます。QDMTTを自国で先に導入しておけば、他国のIIR・UTPRに税収を持っていかれる前に、自国で上乗せ課税分を徴収できるというのが各国の導入動機です。

フィリピンの現状(2026年9月時点)

フィリピンでは、財務省がFIRB・BIRと共同で「Qualified Domestic Minimum Top-up Tax of 2026」の草案枠組みを検討している段階で、2026年9月時点ではまだ法律として成立していません。財務省は、対象となる多国籍企業の多くが「他国の見慣れない上乗せ課税ルールに従うより、フィリピン国内でGMTに準拠する方を選ぶだろう」という前提のもと、QDMTT導入を進める方針を示しています。一方でBIRは、法律の成立を待たずに、担当職員の育成、新しい申告様式・報告体制の整備、税務調査の実施体制の準備を先行して進めていると報じられています。報道では2027年1月1日を施行目標とする案も示されていますが、法案の内容・施行時期とも今後の国会審議次第で変わり得る点に留意が必要です。

PEZA・BOIのITH・5%SCITは無効化されるのか

日系企業にとって最も気になるのは、PEZA・BOI登録企業が享受してきた法人税免除(ITH)や5%SCIT(Special Corporate Income Tax)が、QDMTT導入後も従来どおりの節税効果を持つのかという点です。QDMTTの仕組み上、ある企業の実効税率が15%を下回っていれば、その差額はいずれにせよ上乗せ課税として徴収されます。つまり、ITHで実効税率が0%近くまで下がっていたとしても、その分がまるごと「浮く」のではなく、後から上乗せ課税で穴埋めされてしまう可能性があるということです。この点で、従来型の「法人税率そのものを下げる」タイプの優遇は、対象企業にとっては効果が薄まるリスクを抱えています。

優遇のタイプ QDMTT下での扱い
ITH・5%SCITなど税率軽減型 実効税率が15%を下回った分は上乗せ課税で徴収されうる(節税効果が目減り)
QRTC(適格還付税額控除)型 一定の要件を満たせば、Pillar Two上の所得計算に有利に扱われ、優遇効果を維持しやすい
QTI(適格税額控除・実体連動型) 設備投資・雇用など実体を伴う支出に連動する控除は、他の優遇より有利に扱われる傾向

このため国際的には、法人税率そのものを下げる優遇から、設備投資額や雇用者数など「実体を伴う支出」に連動した還付可能な税額控除(QRTC)や、実体連動型の控除(QTI)へと優遇制度を再設計する動きが広がっています。CREATE MORE法が既に導入しているEDR(Enhanced Deduction Regime)による電力費用の追加控除なども、こうした実体連動型優遇の一種と位置づけられます。フィリピンにおいても、QDMTT導入にあわせてPEZA・BOIの優遇メニュー自体が再設計される可能性があり、既存のITH・5%SCITがそのままの形で残るかどうかは今後の制度設計次第です。

対象になるのはどんな企業か

ここで重要なのは、QDMTTの対象になるのは連結グループ売上高が7.5億ユーロ以上の大規模多国籍企業グループに限られるという点です。フィリピンに単独で進出している中小規模の日系企業や、日本国内の中堅企業がフィリピンに一法人を設立しているようなケースの多くは、この売上高基準に到達せず、当面は対象外となる可能性が高いといえます。一方で、東証プライム上場企業をはじめとする大手製造業・商社グループの現地子会社は、親会社グループ全体の連結売上高が基準を超えるため、QDMTT・IIR・UTPRのいずれかの適用対象になり得ます。自社がどちらに該当するかは、フィリピン現地法人単体の売上高ではなく、日本の親会社を含むグループ全体の連結売上高で判定される点に注意してください。

日系企業が今から確認しておくべきこと

法律がまだ成立していない現時点で実務対応を急ぐ必要はありませんが、準備として次の点を確認しておくとよいでしょう。第一に、自社が属するグループの連結売上高が7.5億ユーロの基準に近づいているか、あるいは既に超えているかを把握することです。第二に、対象になり得る場合は、現在受けているPEZA・BOIの優遇(ITH・5%SCITなど)が、将来的にQRTC・QTI型の優遇に置き換わる可能性を念頭に、優遇の設計変更に関する動向を注視しておくことです。第三に、CREATE MORE法(RA 12066)による既存の優遇メニューの内容を改めて確認しておくことも有用です。CREATE MORE法の詳細については別記事でまとめる予定です。

CREATE MORE法(RA 12066)の詳細については「CREATE MORE法で優遇税制はこう変わったか」で解説しています。

よくある質問

フィリピンのグローバル・ミニマム課税はいつから施行されますか?

2026年9月時点では未成立です。報道では2027年1月1日の施行を目標とする案が示されていますが、国会審議の状況によって変わり得るため、確定情報ではありません。

自社が対象になるかどうかはどう判断すればよいですか?

フィリピン現地法人単体の売上高ではなく、日本の親会社を含むグループ全体の連結売上高が7.5億ユーロ以上かどうかで判定されます。単独進出の中小規模企業の多くは当面対象外です。

対象になった場合、PEZAの優遇を返上すべきですか?

現時点でそこまでの判断をする必要はありません。優遇制度自体がQRTC・QTI型へ再設計される可能性があるため、まずは制度設計の動向を注視し、対象になり得る場合は個別にシミュレーションを行うことをおすすめします。

QDMTTが導入されたら、フィリピン以外の国で追加課税されることはありますか?

フィリピンが自らQDMTTを導入していない状態では、他国のIIR・UTPRによって上乗せ課税分が他国に徴収されるリスクがあります。フィリピンがQDMTTを先に導入することで、その税収をフィリピン国内に留める狙いがあるとされています。

まとめ・専門家への相談

フィリピンのグローバル・ミニマム課税は、2026年9月時点ではまだ法律として成立していないものの、BIRは既に実務準備を進めており、対象となる大規模多国籍企業グループにとっては今後の優遇制度の設計変更を注視すべき局面にあります。一方、フィリピンに単独進出している中小規模の日系企業の多くは当面対象外と考えられますが、親会社グループの規模によっては将来的に対象となる可能性もあります。自社が対象になり得るかどうかの判定や、対象になった場合の影響試算については、個別の状況に応じた検討が必要になるため、専門家への相談をおすすめします。カメリアコンサルティングでは、日系企業グループのフィリピン税務優遇の最適化にかかる相談にも対応しています。

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執筆・監修:日比野和樹

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