【2026年最新】フィリピン個人所得税ガイド|税率・計算例から1700/1701申告・Substituted Filingまで

 フィリピンでは、日本と同様に累進課税が適用されており、個人所得税の最高税率は35%です。TRAIN法(RA 10963)による税制改革の結果、2023年1月1日以降の税率・税額表は恒久的なものとして固定されており、2026年時点でも同じ税率が適用されています。

 本編では、フィリピンにおける個人所得税について、税率表・給与所得の計算例・申告書の種類と期限・源泉徴収義務者の実務まで、日系企業の人事・経理担当者が押さえておくべきポイントを整理してご紹介します。

目次

1. 個人所得税率(2023年1月以降・恒久税率)

 フィリピンにおける個人所得税の税率は、以下のとおりです。課税年度は1月1日~12月31日の暦年です。

課税所得 税率
0 – 250,000 PHP 0%
250,001 – 400,000 PHP 250,000を超過している所得に対して15%
400,001 – 800,000 PHP 22,500 + 400,000を超過している所得に対して20%
800,001 – 2,000,000 PHP 102,500 + 800,000を超過している所得に対して25%
2,000,001 – 8,000,000 PHP 402,500 + 2,000,000を超過している所得に対して30%
8,000,001 PHP~ 2,202,500 + 8,000,000を超過している所得に対して35%

 現在のNCR(マニラ首都圏)の最低賃金は非農業部門で755ペソ/日(月額換算で約19,600~20,000ペソ程度)、セブ(中央ビサヤ、拡大メトロセブ地域)は582ペソ/日となっており、いずれも年収換算で課税所得250,000ペソを下回る水準です。そのため、最低賃金水準で働くフィリピン人労働者の大部分は所得税が非課税となっています。一方、専門職・管理職の給与水準は近年急速に上昇しており、高給なフィリピン人従業員および外国人駐在員によって税収が確保されているという実態があります。

2. 給与所得の計算例(3パターン)

 実際の税額イメージをつかんでいただくため、年間課税所得(非課税所得控除後の金額)ごとの所得税額の計算例を3パターン示します。実際の税額は、各種控除・非課税所得の適用状況により異なりますので、概算としてご参照ください。

想定される役職・年収水準 年間課税所得 計算式 年間所得税額
一般ワーカー(月収3万ペソ前後) 300,000ペソ 250,000を超過する50,000ペソ×15% 7,500ペソ
マネージャー職(月収7.5万ペソ前後) 900,000ペソ 102,500ペソ+800,000を超過する100,000ペソ×25% 127,500ペソ
エグゼクティブ・駐在員(月収25万ペソ前後) 3,000,000ペソ 402,500ペソ+2,000,000を超過する1,000,000ペソ×30% 702,500ペソ

 実務上は、月次の源泉徴収額(Withholding Tax on Compensation)をBIR公表の源泉徴収税額表に基づいて毎月計算し、年末に年間の実際の課税所得に基づく年税額と精算(年末調整)を行う流れとなります。

3. 主な非課税所得

 個人所得税は、総所得から下記のような非課税所得を控除して算出します。有効に非課税所得枠を利用することにより、従業員の所得に対する課税を減額させることが可能となります。

  • 生命保険金
  • 社会保険料の従業員負担分(SSS・PhilHealth・Pag-IBIGの法定拠出分)
  • 13ヶ月給与およびその他手当(合計PHP90,000/年まで)
  • 少額手当(De Minimis Benefits、合計最大PHP90,000/年の別枠)
    • 年10日以内の未使用有給休暇の買取分
    • 扶養家族向けの医療費手当(PHP250/月)
    • お米手当(PHP2,000/月または50kg)
    • 制服・衣服手当(PHP6,000/年)
    • 医療費実費負担(PHP10,000/年)
    • 洗濯手当(PHP300/月)
    • 表彰記念品(年PHP10,000までの記念品、現金は不可)
    • クリスマスや記念品のギフト(PHP5,000/年)
    • 残業食事手当(各地域の最低賃金の25%)
    • 団体交渉協約(CBA)・Productivity Incentive Schemesによる報酬(PHP10,000/年)

4. 納税義務者の区分:居住者・非居住者の取り扱い

 個人所得税の課税方法は、納税者の区分によって異なります。日系企業が外国人駐在員を派遣する場合は、特にこの区分の判定が重要です。

区分 判定基準 課税方法
居住者市民(Resident Citizen) フィリピン国籍を有する者 国内外の全世界所得が累進税率で課税
居住外国人(Resident Alien) フィリピンに居住する意思を持って滞在する外国人 フィリピン国内源泉所得のみ累進税率で課税
非居住外国人(事業従事):NRA-ETB 1暦年でフィリピン滞在が合計180日超 フィリピン国内源泉所得に累進税率を適用(給与所得は上記税率表のとおり)
非居住外国人(事業非従事):NRA-NETB 1暦年でフィリピン滞在が合計180日以内 フィリピン国内源泉の総所得に対して一律25%の源泉徴収による最終課税(源泉分離課税、控除なし)

 短期出張者や年間を通じてフィリピン滞在日数が180日を超えない外国人役員などはNRA-NETBに該当し、累進税率ではなく総額に対する一律25%課税となる点に注意が必要です。180日を超えて滞在する駐在員はNRA-ETBまたは居住外国人として累進税率の対象となり、上記の税率表・計算例がそのまま適用されます。滞在日数のカウントおよび区分の判定は個別の事実関係によるため、赴任時には事前にご相談いただくことをお勧めします。日比租税条約の適用可否についてはフィリピン・日比租税条約の申請方法もあわせてご参照ください。

5. 申告書の種類と提出期限(BIR Form 1700・1701A・1701)

 個人が自ら提出する年次所得税申告書には、所得の種類に応じて主に3種類があり、いずれも提出期限は課税年度終了後の翌年4月15日です。

様式 対象者 提出期限
BIR Form 1700 給与所得のみを有する個人のうち、後述のSubstituted Filingの対象とならない者(複数雇用主から給与を得た場合、源泉徴収に誤りがある場合など) 翌年4月15日
BIR Form 1701A 事業所得・専門職所得のみを有し、8%課税(総収入3,000,000ペソ以下が上限)またはOSD(概算経費控除)を選択する個人 翌年4月15日
BIR Form 1701 給与所得と事業所得の両方を有する個人(混合所得者)、または事業所得のみで実額控除(Itemized Deduction)を選択する個人 翌年4月15日

6. Substituted Filing(申告免除制度)とは

 給与所得のみを有する従業員については、一定の要件を満たす場合、個人による年次申告書(BIR Form 1700)の提出が免除される「Substituted Filing」という制度があります。雇用主が従業員に代わって年間の所得・源泉徴収税額をBIR Form 1604-C(源泉徴収年次情報申告書)としてBIRに提出し、従業員は雇用主から交付されるBIR Form 2316(源泉徴収票)に署名することで、これが申告書の代替となります。

 Substituted Filingの主な適用要件は以下のとおりです。

  • 当該課税年度において、フィリピン国内の単一の雇用主からのみ給与を受け取っていること
  • 給与所得以外の所得(事業所得・不動産所得など)がないこと
  • 雇用主が源泉徴収税額を正しく計算・納付していること
  • 居住者(居住者市民または居住外国人)であること

 年の途中で転職した場合や、複数の雇用主から給与を受け取った場合、副業等の所得がある場合は、Substituted Filingの対象外となり、従業員自身でBIR Form 1700等による確定申告が必要になります。BIR Form 2316の詳細な記載内容・実務上の注意点はフィリピンの源泉徴収票(BIR Form 2316)についてで解説しています。

7. 源泉徴収義務者(雇用主)としての実務

 日本と同様に、会社は従業員の給与等に係る所得税を源泉徴収し、毎月翌月10日までに税務当局に申告・納付する義務があります。

 更に、年度末には年末調整を実施し、翌年1月31日までに雇用主が従業員の申告書(BIR Form 1604-C)およびアルファリストを提出し、1年分の源泉徴収票(BIR Form 2316)を従業員に配布・BIRに提出します。

 フィリピンにおいては、給与の支払いが月2回であり、年末には13ヶ月給与を支払う必要がある等、日本と異なる点が多々あります。また、給与計算のミスが思わぬトラブルに繋がるケースもあり、特に労働者保護の観点が強いフィリピンにおいては十分な配慮が必要です。社会保険料の実務についてはフィリピンの社会保険制度まとめ(SSS・PhilHealth・Pag-IBIG)もご参照ください。

まとめ

 フィリピンの個人所得税は、2023年以降の累進税率が固定的に適用されており、日本と比較して最高税率は低い一方、申告様式・Substituted Filing・非居住外国人への一律課税など、日本にはない独自のルールが多く存在します。特に外国人駐在員の派遣にあたっては、滞在日数による納税者区分の判定が税負担に直結するため、赴任計画の段階から専門家に相談することをお勧めします。

 より広範な税務トピック(法人税・VAT・源泉税・税務調査等)はフィリピンの税務完全ガイドで総合的に解説しています。

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