フィリピンにおける会社設立の概要

 フィリピンに進出している日系企業の数は、年々増加しており、現在では約1,400社以上になっています。日系企業の進出は、製造業やサービス業を中心に行われており、自動車、電子機器、半導体、食品加工、IT分野、語学学校、保険、不動産開発、飲食店などの分野に進出しています。

 

 一般的に、日系企業のフィリピン進出には、以下に代表されるような様々なメリットがあるとされています。

・成長市場へのアクセス:フィリピンは、経済成長が著しい新興市場であり、人口が約1億人いるため、消費市場として大きな潜在力があります。また、ASEAN (東南アジア諸国連合) の一員であり、ASEANの自由貿易協定に参加しているため、ASEAN市場へのアクセスも容易です。
・人材・資源の利用:フィリピンには、豊富な若い労働力や天然資源が存在します。また、英語が公用語であるため、英語力のある人材を利用することができます。
・規制緩和:フィリピン政府は、外国企業を誘致するために、外国直接投資に関する規制を緩和しました。投資の手続きも年々簡素化されており、外国企業にとって進出しやすい環境が整ってきています。また、フィリピン政府は、外国企業に対して投資優遇措置を設けており、特定の産業や地域に投資することで、税制面や手当面での優遇を受けることができます。

 これらのメリットを活かすことで、フィリピンに進出する企業は、新しい市場を開拓し、成長戦略を成功に導くことができます。


一方、フィリピンにおける会社設立手続きは、日本と比較して大変煩雑であり、SECにおける法人登記まで最短1ヶ月、その後の地元自治体の営業許可証取得まで含めると3ヶ月強の時間を要することが一般的です。
本編では、会社設立手続きの流れを紹介していきます。

 

会社設立の流れ

 

 

1.進出形態の選択

 まず初めに、フィリピンにおいて事業を行うための進出形態を決めます。日本企業がフィリピンに進出する際の形態は、主に「現地法人」「支店」「駐在員事務所」のいずれかです。

現地法人

 現地法人の設立はフィリピンにおいて株式会社を設立する進出形態であり、進出における一般的な形態です。フィリピンにおいて行う事業がネガティブリストにおいて制限されている場合、日本法人による株式の保有割合や最低資本金に影響が及ぶため、事前に調査を行う必要があります。

支店

 日本の本社に対して、フィリピンに支店を設立する進出形態です。
仮にフィリピンに設立した支店において訴訟を受けた際には、法的責任が日本の本社にまで波及するため、リスクとなる可能性があります。また、日本の本社にて定款に定めている事業を支店で行うこととなり、同事業がネガティブリストにおいて制限されている場合には支店による進出は不可能となります。

駐在員事務所

 駐在員事務所では情報収集、本社製品およびサービスの販売促進、品質管理が許可されている一方、所得を得ることは禁止されております。

 

 フィリピンにおける本格的な事業展開を検討している場合は、一般的に現地法人を設立します。特に、業種・投資規模によっては、経済特区(PEZA)を利用し、法人所得税の免除等の優遇措置を受けられる可能性があるため、会社設立手続きの開始前に専門家に相談を行うと良いでしょう。

 一方、支店・駐在員事務所には現地法人と比較して活動に制限がある可能性があります。さらに設立手続きにおいて、監査済み財務諸表の公証およびアポスティーユの取得等を要求されること等からも、現地法人の設立と比較して日本側における負担が大きい可能性があります。

 なお、現地法人には取締役2名以上と社長・秘書役・財務役(一部取締役と兼任可)を選定する必要があります。一方、支店設立・駐在員事務所の場合、現地居住代理人を1名を選定します。

 

2.会社名(商号)の予約

 会社名について、同名あるいは類似の会社がフィリピンに登録されている場合、その会社名を利用できません。そのため、会社設立の申請前に、証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)にて承認を得る必要があります。承認がなされると社名確認書が発行され、SECに予約がなされます。なお、予約された会社名の有効期間は90日(延長手続き可能)です。

 

3.会社住所の確保

 会社設立にあたり、会社住所を登録するため、事前にオフィスの仮契約を行う必要があります。マニラ・セブには、日系のレンタルオフィス・バーチャルオフィス・コワーキングスペースも存在しており、住所貸しサービスを利用することも可能です。また、本格的にオフィスを構える場合には、早めに不動産業者に連絡を取り、物件を探すこととなります。一般的に、会社設立が完了した後、本契約としての賃貸契約を締結します。

 

4.発起人・保有割合・役員の決定

 フィリピンで現地法人を設立するためには、発起人が自然人2名以上と定められており、1名1株以上を所持しなければなりません。(※本編では一人会社の説明は割愛しております。)

 株式の保有割合について、フィリピンの外資規制により外国人が保有できる割合・最低資本金に制限が課されます。
例えば、国内市場向け企業であり外資規制に該当していない業種(100%外資可能)の場合においても、最低資本金が20万USドルと設定されています。フィリピン国籍が60%以上を保有する法人の最低資本金の制限がないことからすると、外国資本に対しての一定の規制が存在していると言えます。
また、業種による外資規制としては、小売業(飲食店・美容院を含む)において最低資本金が2,500万ペソ以上という規制、あるいは人材派遣事業は最低資本金に関わらず外国人の保有割合が25%以下という規制があります。

 なお、全ての取締役は法人の株式を少なくとも1株以上保有している必要があります。また、例えばフィリピン国籍が60%を保有する法人では、取締役の60%以上がフィリピン国籍である必要があります。

 また、会社設立時または直後には秘書役・財務役を任命します。秘書役はフィリピン人である必要があり、財務役は法人が外資規制の対象ではなくフィリピンに居住する日本人であれば就任可能です。いずれも取締役との兼任が可能であり、日系企業において、取締役と財務役を兼任しているケースが多くあります。

 

5.定款・必要書類の作成・準備

 2021年4月19日より、SECの システム(ESPARC:Electronic Simplified Processing of Application for Registration of Company)によりオンラインで会社設立の申請を行うこととされています。「事業開始申請書(SEC書式番号F-100)」を始めとする各書類を含めて、SECとのやりとりは会社設立を行う専門家がESPARCを通じて行います。

 定款に記載する内容としては、会社名、事業内容、会社住所、存続期間、発起人、取締役、授権資本額、払込資本額、財務役の任命等があります。また、付属定款に記載する内容としては、株主総会、取締役会、会社役員、会計年度等があります。SEC担当官によるオンラインにおけるレビューが完了した後、書面印刷・署名を行います。ここで、一度日本において、親会社・新会社の取締役会決議書、委任状、英語の定款等のアポスティーユを取得します。
同必要書類の提出後、SEC担当官より手数料支払いのためのリンクを受領しますので、オンラインにて支払いを行った後、e-Certificate of Incorporation (e-COI)が発行され、後日SEC書類の原本についても発行されます。

 

6.資本金の払込

 会社設立前にTITF口座と呼ばれる資本金払込専用の仮口座を開設します。口座開設に際しては、銀行の窓口にて現地法人の社長・財務役がサインをする場合があるため、社長がフィリピン非居住の場合等においては銀行と事前に連絡を取り、フィリピン渡航の予定と調整する必要があります。口座開設後はすぐに払込資本金の支払いが可能です。

 

7.会社設立の完了

 上記の必要書類を準備した後、登録手数料を支払い、SECの登録申請が承認されると登録証書が発行されます。なお、登録手数料は、初期送金額の1%の1/10であり、加えて登録手数料の1%に相当する調査手数料の支払いも発生します。

 

8.法人口座の開設・資本金の払込み・中央銀行の手続き

 会社設立後に、法人口座を開設し、資本金の払込みを行います。口座開設に際しては、現地法人のサイナー/シグナトリー(現地で資金管理を行う人)が銀行の窓口にてサインをする必要があるため、サイナーがフィリピン非居住の場合等においては銀行と事前に連絡を取り、フィリピン渡航の予定と調整する必要があります。
 また、資本金や借入金として送金した外貨は中央銀行に登録を行うことで、将来利益還流時や撤退時等に外貨を調達・送金し易くなるため、銀行に確認を行うと良いでしょう。

 

9.地方自治体とバランガイでの手続き

 SECの登録証書取得後、バランガイ(最小行政区分)の許可証(Barangay Clerance)、および地方自治体の事業許可証(Mayor's Permit)を取得する必要があります。事業許可証の取得にあたって、通常、以下のような書類を提出し、職員による現地査察を受けます。なお、手続きの過程で取得する保健衛生許可証(Sanitary Permit)の申請には、従業員がX線検査を行うプロセスや、消防署の証明書(Fire Certificate)取得に所定の消火器の購入等の細かいプロセスがあります。

・所定の申請書
・公証済み賃貸契約書
・SECの登録証書原本
・定款・付属定款原本
・申請手数料

 

10.税務署における手続き

 地方自治体での手続きと同時に、内国歳入局(BIR:Bureau of Internal Revenue)の管轄税務署における登録手続きを開始します。申請する内容は以下のとおりです。
BIRへの申請と並行して印刷業者からオフィシャルレシートの購入が必要となります。

・登録申請書(BIR Form 1903)
・事業許可証
・公証済み賃貸契約書
・SECの登録証書
・会計帳簿
・定款・付属定款
・登録手数料

 

11.社会保険関連の手続き

 従業員を雇用したタイミングで会社として社会保険登録の手続きを行います。社会保険は社会保障制度(SSS:Social Security System)、健康保険公社(PhilhealthまたはPHIC:Philippine Health Insurance Corporation)、持家促進相互基金(HDMFまたはPag-IBIG:Home Development Mutual Fund)の3種類が必要となっています。

 

 上記のとおり、フィリピンにおける会社設立には非常に煩雑な手続きが多いだけでなく、当局の逼迫状況・書類の不備・担当官とのやりとり等によっても設立までの期間が変動することがあります。また、現地の知り合いや代理人に委託して手続きを行った結果、正式な登記がなされていなかったり、コンプライアンスの不充足に伴うペナルティが発生するケースもございます。
今後フィリピンにおける会社設立を検討されている方は、個人・法人を問わず、まずはお気軽にお問い合わせフォームまでご相談ください。

 

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投稿者プロフィール

Kazuki Hibino
Kazuki Hibino
独立系コンサルティングファームにて、M&A事業部、内部監査室を経て、2015年にフィリピン赴任。その後、外資系コンサルティングファームに転職し、主に国内上場企業のM&AにおけるFA業務を経験。2023年にフィリピンにて独立。