フィリピンにおける租税条約適用(TTRA)の概要

 フィリピン非居住者である日本親会社がフィリピン法人からフィリピン源泉所得を受け取る場合、当該所得はフィリピンにおいて課税対象となり、フィリピン法人により源泉徴収が行われます。一方、日本においても当該所得が課税対象となっており、フィリピンと日本の二国間において二重課税が発生してしまいます。こうした二重課税を排除するために、二国間において日比租税条約が締結されており、フィリピン法人による源泉徴収税については租税条約適用申請(Tax Treaty Relief Applications:TTRAs)を行うことで、軽減・免除が可能となります。

 本編では、日比租税条約およびその適用申請についての概要をお伝えいたします。

 

 

日比租税条約適用後の軽減税率

 フィリピンは、現時点において日本を含む43カ国と二国間租税条約を締結しています。フィリピンと日本の二国間における日比租税条約は2008年末に改正手続きが終了し、2009年1月1日より以下のように新税率が適用されています。

所得の支払の種類 税法上の源泉税率 日比租税条約に基づく税率
事業所得(Business Profits) 25% 免税
利子(Interest) 20% 10%
配当金(Dividend) 25% 10% (or 15%)
ロイヤルティ(Royalties) 25% 10% (or 15%)
機械設備の使用料 7.5% -
キャピタルゲイン 15% 免税
支店から本店への利益送金 15% 10%

 

 上記の日比租税条約に基づく税率を利用するためには、TTRAs申請が必要となっており、適切に手続きがなされない場合には、当該税率が適用されない可能性があります。

 

TTRAs申請の概要

 TTRAsに関するルールは頻繁に変更されており、2021年3月31日に公表されたRMO No. 14-2021が現時点における最新のルーリングとなります。

 当該ルーリングにおいて、①所得支払時に租税条約に基づく税率で源泉徴収し、源泉徴収者がBIR のITAD(International Tax Affairs Division: 国際税務課)にRFC(Request for Confirmation)を申請する方法と、②所得支払い時は税法上の税率で源泉徴収し、その後所得受領者がTTRA申請および還付申請を行う方法が規定されています。いずれの方法においても、下記およびRMO No.14-2021で規定される書類を提出することとなります。

 

TTRAs申請手続きの概要

 まず、所得支払者は、所得受領者から提出された申請書(BIR Form0901)、税務当局発行の居住証明書および租税条約の規定を基に租税条約適用の可否を判断するため、当該書類を最初の所得の支払前に所得支払者に提出する必要があります。

 所得受領者の所得について、源泉支払者が租税条約に基づく税率を適用した場合(①)には、源泉徴収者が、各課税年度の終了後4ヶ月目の最終日までにRFCをBIRに提出します。BIRによりRFCが無事承認された場合には証明書を受領しますが、源泉徴収において適用された税率があるべき税率より低かったとBIRが判断した場合、RFCに対する否認が通知され、源泉徴収者は不足税額およびペナルティを納付します。

 一方、税法上の税率を適用した場合(②)には、所得受領者が、租税条約に基づく税率の適用要件を満たすことを証明するため、当該所得受領後にTTRA申請をします。TTRA申請で租税条約に基づく税率の適用が認められた場合には、過大に納付した分について所得受領者は所得受領時から2年以内に還付申請を行うことができます。

 なお、TTRAsの申請が否認された場合には、納税者は否認の通知を受領後30日以内に財務省(DOF)に訴えることが可能となっています。

 

提出書類

A.一般的な必要書類

1.リクエストレター
2.BIR Form0901(Application Form、所得項目別)
3.日本の税務当局が発行する居住証明書(Tax Residency Certificate: TRC)
4.所得支払を証明する銀行書類
5.源泉税申告書およびアルファリスト
6.源泉税の納付を証明する書類
7.公証済み委任状 (SPA)
8.定款の英語翻訳(要アポスティーユ)
9.SECが発行する未登録証明書(Certificate of Non-Registration)

 

B. 所得項目ごとに要求される書類

事業所得

1.事業に係る契約書
2.委任状(SPA)
3.宣誓書(Sworn Certification)
4.移民局発行の渡航履歴を記した証明書またはパスポート
5.案件完了証明書(Certificate of Completion)
6.所得受領者発行のインボイス等

 

配当の場合

1.配当決議に係る取締役会議事録
2.秘書役等の宣誓書(Certification under oath)
3.前年度の監査済み財務諸表のコピー(Certified True Copy)
4.GIS(General Information Sheet)
5.フィリピンの恒久的施設と株式保有が独立していることの証明

 

利子の場合

1.ローン契約書
2.貸付金の送金証明書(預金残高証明書/送金証明書等)
3.フィリピンの恒久的施設と借入が独立していることの証明
4.独立企業間レート(Arm’s Length Rate)であることの証明(債務者と債権者が関連者である場合)

 

ロイヤルティの場合

1.ライセンス契約書
2.ライセンス製品、特許、著作権、商標、トレードネー ムなどの所有権の証明
3.フィリピンの恒久的施設とロイヤルティに係る権利が独立していることの証明

 

 このように、TTRA申請においては、租税条約適用の根拠となる取引や関連規定を理解した上で様々な書類を整備する必要があり、一部についてはフィリピン大使館における認証またはアポスティーユを求められるため、日本側における一定の負担も発生します。また、適宜BIRのITADにおける判断に資する追加情報を提供することが求められる可能性もあります。煩雑な手続きに加え、適用税率の認識相違によるリスクもあるため、早めに取り組むことが望ましいでしょう。
なお、弊社においてはTTRA申請業務も行っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

 

投稿者プロフィール

Kazuki Hibino
Kazuki Hibino
独立系コンサルティングファームにて、M&A事業部、内部監査室を経て、2015年にフィリピン赴任。その後、外資系コンサルティングファームに転職し、主に国内上場企業のM&AにおけるFA業務を経験。2023年にフィリピンにて独立。

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