PEZA・BOIインセンティブの最適な選び方【最新IRR2025対応】

本記事の目的は、最新IRRを踏まえたCREATE MORE法の実務的理解と、PEZA/BOIどちらを選ぶべきかの判断基準を明確化することです。
CREATE MORE(Republic Act No. 12066)は、2024年11月に成立(11月28日発効)し、2025年2月20日にIRRが公表・適用されました。これは旧CREATE法(RA 11534)の改訂版であり、投資促進インセンティブの競争力を高めるために設計されています。

本記事では、制度の解説だけでなく、SIPP(Strategic Investment Priority Plan)との関係性、税務・通関実務上の影響、判断の実務フレームまでを含め、日系企業が現場で迷わず動ける内容にまとめています。

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目次

CREATE MOREの核心

2024年11月28日に発効したCREATE MORE法では、以下の4つが最重要ポイントです。

  1. インセンティブ制度の明確化
    所得税(ITH→ED/SCIT)、関税免除、VATゼロレートなどが一体で整理され、IPA(Investment Promotion Agency)ごとの差異を統一化。
  2. IRRによるルールの標準化
    2025年2月発効のIRRでPEZA・BOIの運用方針が統一され、透明性が向上。
  3. SIPPとの整合性強化
    SIPPで定義された優先分野(製造・IT-BPM・再エネ等)に合致するかが投資承認の前提。
  4. Pre-CREATE案件の経過措置維持
    既存登録企業も一定期間は旧制度を継続可能。

これにより、「どこで登録するか(PEZA or BOI)」が企業の税務戦略上の最重要判断要素になっています。


SIPP(Strategic Investment Priority Plan)とは

SIPP(Strategic Investment Priority Plan)は、フィリピン政府が3年ごとに定める投資優先分野の設計図で、どの産業・活動が税制インセンティブ(ITH、ED、SCIT、関税・輸入VAT免除、ゼロレーティング等)を受けられるかを定義します。SIPPはBOI(Board of Investments)とFIRB(Fiscal Incentives Review Board)が主導し、各IPA(PEZA/BOI など)が同一基準で審査できるよう整備されています。

現行は2026年SIPP(大統領覚書命令(MO)第47号。2026年5月21日承認、6月2日官報掲載、6月17日有効、有効期間3年)です。Tier 1〜3の枠組みは2022年版から変わっていませんが、2022年版では項目が示されていなかったTier 1を含め、各Tierの対象活動が具体的に列挙されました(Tier 1には、半導体・電子機器の製造・組立・試験、国内市場向けのIT-BPM、SaaSを含むソフトウェア開発などが含まれます)。2022年SIPPを前提にした過去の整理は、2026年SIPPで見直す必要があります。したがって、PEZA/BOIどちらを選ぶにも第一歩は「自社活動がSIPPのどこに該当するか」の確認です。

CREATE MOREの全体像

CREATE MOREの全体像(最新版IRRの押さえどころ)

CREATE MORE(Republic Act No. 12066)は、2024年11月に成立したCREATE法の改正法で、投資インセンティブの競争力・一貫性・予見可能性を高めることが目的です。実務運用の基礎となるIRR(Implementing Rules and Regulations)は2025年2月17日署名・2月20日前後に発効。FIRBはIRRと併せてパンフレット/比較ガイドを公開し、ED/SCITの拡充、DME(国内市場企業)の扱い、WFH制限、二重登録禁止、RBELT(地方税)などの新要素を整理しています。

インセンティブの型と適用期間(数値早見)

CREATE MOREの基本枠は(1) ITH(免税) → (2) ED(強化控除) もしくは (3) SCIT(特別法人税)という“二段階+選択制”。SIPP Tierや輸出/国内の別で年限と中身が決まります。なお、SCITを選べるのは登録輸出型企業(REE)のみで、国内市場向け企業(DME)はEDRのみです。一度選択したインセンティブは変更できません。

区分典型的年限(目安)中身の例適用主体
ITH4〜7年期間中の法人所得税ゼロREE/DME(SIPP適格)
EDITH後 10年(IPA承認は合計14〜17年、FIRB承認は24〜27年)電力費100%、R&D費・訓練費100%、労務費50%、国内投入費用50%の追加控除 等DME/高付加価値DME(REEも選択可)
SCITITH後 10年(EDRと選択。選択後は変更不可)5%特別法人税(総所得に対し)REE(登録輸出型企業)のみ

注:年限・控除率はIRRのマトリクスに基づき事業・立地・Tierで変動。IPA承認案件は合計14〜17年、FIRB承認案件(投資額150億ペソ以上など)は合計24〜27年。

ED(Enhanced Deductions)の代表項目(イメージ)

  • 電力費:100%、R&D費:100%、フィリピン人従業員の訓練費:100%(IPA承認が必要)、労務費:50%(間接部門を除く)、国内投入費用:50%、展示会・見本市費用:50%(IPA承認が必要)、建物・機械の減価償却への追加10%・20% 等(CREATE MORE IRR Rule 2, Sec. 1)。EDは“利益率が薄く投資額が大きいDME”にも効果的。

間接税(関税・輸入VAT・ゼロレーティング)

  • 輸入関税・輸入VATの免除:原材料・機械設備・スペア等の特定用途について免除対象を明確化。
  • ローカル購買のゼロレート:登録活動に直接帰属し、証憑・サプライヤ登録等の条件を満たす場合にゼロレート適用。PEZAはゼロレート該当性の明確化通達を継続更新。

登録・監督・遵守の新原則(ダブル登録禁止/WFH制限 等)

  • 二重登録禁止:同一活動を複数IPAで重複認可することを明確に禁止。
  • WFH(Work From Home)の制限:IT-BPM等での在宅比率は、ゾーン外の運用やゼロレート適用に影響。
    背景:パンデミック後、PEZA は IT-BPM 企業に「在宅可」の柔軟運用を示しましたが、FIRB は原則オンサイトという立場を取り、矛盾が生じました。この問題への制度的解決として、IT-BPM 企業が BOI に登録移管すれば WFH を拡大してもインセンティブを維持できる道が開かれました(PEZA MC 2022-067、FIRB発表)。
    現在(CREATE MORE・IRR):エコゾーン・フリーポート登録企業のWFHは、登録事業に従事する総労働力の50%までに制限されています(BOI登録企業は最大100%)。2026年3月24日の国家エネルギー非常事態宣言を受け、FIRB決議005-26により、PEZA等の登録企業は、宣言が解除されるまで最大90%までWFHが可能です(機器一覧と保証証券(Surety Bond)のIPAへの提出が必要。IPAの上限を超えた分には、通常の法人所得税相当額のペナルティが課されます)。
  • RBELT(Registered Business Enterprise Local Tax):地方税の扱い・優遇の新ルールを提示。
    これらはIRR本体とFIRBガイダンスで具体化されています。
    内容:CREATE MORE で導入された RBELT は、LGU(地方自治体)が RBE に課す新しい地方税で、税率上限 2%・課税ベースはGross Income。RBELT を課す場合は、他のすべての地方税・手数料が不要になります。なお、SCIT 方式を選んだ RBE には RBELT は適用されないとされています。ED+RBELT/SCIT の選択について、最適解が案件ごとに変わること可能性ありシミュレーションが煩雑となることが懸念されます。

Pre-CREATE案件の経過措置

CREATE以前に登録していた事業(PEZA/BOI)は、従前の特典を残存期間中は維持可能。再投資・拡張時はCREATE MOREの新ルールとの“併存管理”が必要で、ゼロレート適用や輸入免税の証憑トレーサビリティ強化が実務ポイントです。


PEZAとBOI、どちらを選ぶ?(意思決定フレーム)

意思決定の事例—「輸出70%のEMS工場」と「国内市場を狙う再エネ部材」

まず、輸出比率70%超のEMS(電子機器受託製造)を想定しましょう。彼らにとって致命的なのは原材料の輸入コストとキャッシュフローです。PEZAを選べば、輸入関税・輸入VATの免除とローカル購買ゼロレートで、仕入れ段階のコストと前払い税の負担を大幅に圧縮できます。さらに、ゾーン内のワンストップ運営は、通関・許認可・監査対応を効率化し、月次オペレーションの安定性に直結します。一方のデメリットは、ゾーン立地の制約と輸出比率KPI。国内販売を伸ばす戦略に切り替えると、後年に要件未達ペナルティやゼロレート否認の火種にもなり得ます。

対照的に、国内市場向けに成長を狙う再エネ部材メーカー(DME)はどうでしょう。BOIは立地の自由度が高く、サプライヤーや顧客の近接性を重視した多拠点配置が取りやすい。さらにSIPPのTier上位に合致すれば、ITH→EDRで電力費・R&D費などの追加控除を長期で積み上げる戦略が有効です。デメリットは、通関・ゼロレートの自動性が弱いため購買・証憑管理の設計が難しく、FIRB/BIR/地方自治体を跨ぐマルチ機関連携に時間とコストがかかる点です。

PEZAおよびBOIの比較表

判断軸PEZABOI
立地エコゾーン内(集積・インフラ・管理が効く)全国(顧客/サプライヤー近接・拠点展開が容易)
事業モデル輸出主導、仕入の間接税最小化国内市場志向、SIPP Tier上位で所得税厚み
主要メリット関税・輸入VAT免除/ゼロレート/ワンストップITH→ED/SCIT選択の柔軟性/立地自由/サプライ網設計
主なデメリット輸出KPI・ゾーン縛り/国内販売拡大は要設計通関・ゼロレートの即効性に欠ける/調整コスト高
監督PEZA(ゾーン管理)+FIRB・BIRBOI+FIRB(監督濃い)+BIR・LGU
こんな企業にEMS/半導体/BPO/輸出製造再エネ/先端製造/国内志向の多拠点

留意点

  • ゼロレートの実務:PEZAは仕入段階から効くが、BOIは条件整備と証憑統制が命。購買プロセスとシステム改修のコストも見えない差となります。
  • 人材・ロジ・公共料金:EDRで電力費100%の追加控除が効くDMEでも、現地電力の安定度や物流ボトルネックで計画が崩れることがあります。
  • WFH・施設要件:IT-BPM等はWFH比率がゼロレートや登録要件と絡みます(PEZA/IRRガイドを要確認)。
  • 二重登録禁止:活動の切り分けが曖昧だと、二重登録と見なされ却下・取消リスク。

手続と実務ステップ(IRR→IPA通達→登録→運用)

ステップ1|適格性の確認

まず、SIPP(Strategic Investment Priority Plan)の最新版(2026年SIPP、2026年6月17日有効)を確認し、自社事業が対象業種(Tier 1〜3)に含まれるかを判断します。
Tierが上がるほど、恩典の年限や内容が厚くなります。

ステップ2|IPA(PEZA/BOI)への事前相談

次に、PEZAまたはBOIへ投資計画書を提出し、対象事業・資本金・雇用創出効果を事前に説明します。
IRR施行後は、IPAが統一フォーマットに基づき審査を行うため、早期の窓口確認が重要です。

ステップ3|申請・登録・認可

申請書類(フォーム、事業計画、財務見通し、SIPP該当証明など)をIPAに提出。
認可後、登録証書を取得し、BIRへの登録変更・銀行開設・ゾーン入居などを進めます。

ステップ4|運用・報告・監査

登録後は、毎年の報告義務(パフォーマンス報告書)や会計監査を通じてコンプライアンスを維持します。
PEZAではゾーン管理者が、BOIではFIRBが監督します。
不履行があると、インセンティブの停止・取消があり得ます。

参考一次情報:FIRB CREATE MORE特設(IRR全文・比較ガイド・パンフレット等)、BIR RR 18-2024(CREATE MORE改正条項の一部実装)、PEZA MC。


まとめ(最適な選択と今後のアクション)

CREATE MORE法とそのIRRは、フィリピンの投資インセンティブ制度を「一貫・透明・選択制」へ進化させたものです。その中でPEZAとBOIはそれぞれ明確な強みを持ちます。

  • PEZA:輸出志向企業・製造業・BPO・半導体に最適。
  • BOI:国内市場向け製造、再エネ、先端技術、グリーン投資に適す。

CREATE MOREは単なる税制改正ではなく、「投資判断の設計図」を再定義する法律です。
適切な選択と準備を行えば、日系企業にとってフィリピン投資はこれまで以上に魅力的なものとなるでしょう。


✅ この記事のポイント

  • CREATE MORE(RA 12066)は2024年11月28日発効、2025年2月のIRRで統一基準確立。SIPPは2026年版(6月17日有効)に更新
  • PEZA=輸出志向、BOI=戦略産業・国内市場志向
  • ITH→ED/SCITの選択制、SIPPとの整合性がカギ
  • まずは自社の事業モデルをSIPPに照らして判断することが第一歩

上記のとおり、PEZA/BOIの規則は少しずつ透明性を増してはおりますが、依然として複雑であり、企業によっては意思決定が難しい状態が続いています。各種の通達を読み解いた上で、当局との交渉を行い、正しくシミュレーションを行うことには高いハードルがございます。今後フィリピンにおいてPEZA登録、BOI登録を検討されている方は、お気軽にお問い合わせフォームまでご相談ください。

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