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2026年SIPP(戦略的投資優先計画)の解説|Tier 1〜3の対象活動、2022年版との違い、優遇期間の早見表
2026年5月21日、マルコス大統領は2026年版の戦略的投資優先計画(SIPP:Strategic Investment Priority Plan、大統領覚書命令第47号)を承認しました。6月2日に官報に掲載され、15日後の6月17日から有効になっています。2022年版から約4年ぶりの改定です。CREATE MORE法の下では、原則として、SIPPに載っている活動だけがPEZAやBOIなどの投資促進機関(IPA)への登録申請の対象になり、承認された登録プロジェクトが優遇税制の対象になります。新規の進出や事業の拡張を考える日系企業にとって、最初に確認すべき資料です。
本記事のSIPPの内容は、2026年6月11日時点で公表されていた情報に基づいています。
この記事の要点
- 2026年SIPPは2026年6月17日から有効。税法上、SIPPの有効期間は3年間で、3年ごとに改定するとされている
- 原則として、SIPPに載っている活動だけがIPAへの登録申請の対象になり、承認された登録プロジェクトが優遇税制の対象になる(内国歳入法第300条)
- 活動はTier 1〜3に分かれ、優遇期間は、Tierと立地の区分(NCR/大都市圏など/その他の地域)の組み合わせで決まる
- 2022年版ではTier 1の具体的な項目がなかったが、2026年版はTier 1〜3のすべてで対象活動が具体的に示された
- 量子技術、IC設計、海水淡水化、半導体、防衛関連製造、原子力・水素エネルギーなども対象活動に含まれている
- 輸出活動は、Tier 2・3の要件を満たさない限りTier 1。輸出製品の製造とサービス輸出には、70%の輸出要件がある
- 優遇期間(IPA承認の場合)は、ITH 4〜7年+SCIT/EDR 10年、または最初からSCIT/EDR 14〜17年
SIPPとは:なぜ重要なのか
SIPPは、2021年のCREATE法(企業復興税優遇法)で税法上導入された制度です。原則として、SIPPに記載された活動(プロジェクト)だけがIPAへの登録を申請でき、承認された登録プロジェクトだけが優遇税制の対象になります(内国歳入法第300条)。このルールは、2024年11月に施行されたCREATE MORE法の下でも続いています。
CREATE法より前は、BOIの投資優先計画(IPP)など、PEZAやSBMAといった各IPAがそれぞれ対象を定め、優遇の内容もIPAによって異なっていました。SIPPは、単一のリストで各IPAの優遇を原則として統一し、透明性と予見可能性を高めるための仕組みです。SIPPは、BOIがFIRB(財政インセンティブ審査委員会)や他のIPAと協議して策定し、大統領の承認を経て公布されます。
優遇税制の全体像は「CREATE MORE法で優遇税制はこう変わった」、PEZAとBOIの選び方は「PEZA・BOIインセンティブの最適な選び方」をご参照ください。
Tier 1〜3の考え方
Tierを分ける基本的な考え方は、CREATE MORE法の施行細則(IRR)に示されています。
| Tier | 位置づけ | 主な考え方 |
|---|---|---|
| Tier 1 | 現代の基本ニーズ・持続可能性 | 雇用創出の潜在力が高い、市場の失敗で基礎的な財・サービスが不足している分野、付加価値の創出、産業発展に不可欠な支援、比較優位が見込める新興分野 |
| Tier 2 | 国家戦略産業 | 国内で生産されていないが、産業発展に重要な供給品・部品・中間サービスを生産する活動(原油精製を含む) |
| Tier 3 | 科学技術とイノベーション(最高優先度) | 付加価値の高い研究開発、フィリピン国内で登録・ライセンスされた新たな知識・知的財産の創出、登録企業が単独または共同で所有する特許等の事業化、高度に専門的な製造、AI・データセンター・サイバーセキュリティなど構造転換に重要な分野 |
2022年版との違い
2022年版SIPPでは、Tier 1の具体的な項目が示されておらず、その前の2020年IPP(投資優先計画)に含まれるすべての活動がTier 1に含まれるという、変則的な扱いでした。2026年版では、Tier 1からTier 3まで、対象活動が具体的に列挙されています。
また、2022年版が主にパンデミック後の回復支援として、製造業・インフラ・必需サービスを重視していたのに対し、2026年版は、高付加価値・イノベーション主導の活動や、安全保障の観点から優先活動を見直している点が特徴とされています。量子コンピューティング、IC設計、海水淡水化プラント、半導体、防衛関連製造、原子力エネルギー、水素エネルギーなどが含まれ、カバーされる活動の項目も2022年版より増えています。
日系企業に関係しやすい主な対象活動
2026年SIPPの対象活動のうち、日系企業に関係しやすいものを抜粋します。実際に該当するかは、個々の要件と詳細な規定によって判断されます。2026年6月時点の情報では、BOIがさらに詳しい個別ガイドラインを公表する予定とされていました。
Tier 1
- 製造業:農林水産物の加工、医薬品、半導体・電子機器(部品・構成要素を含む製造、組立、パッケージング、試験など)、機械・設備、造船、鉄鋼、セメント、付加価値を生み出す製造活動(半製品・中間財・完成品)
- サービス:クリエイティブ産業・知識集約産業(国内市場向けのIT-BPM、ハイパースケーラー、ゲーム開発、アニメーション、SaaSを含むソフトウェア開発、エンジニアリング設計など)、船舶修理、航空機の整備・修繕・オーバーホール、最先端のEPC
- インフラ・物流:通信、住宅、港湾・ターミナル、航空・水上輸送、公共陸上輸送(新規の代替燃料を用いた旅客向け事業)、LNGの貯蔵・再ガス化、石油・ガスのパイプライン、研修・教育施設、試験・検査施設、国内工業団地、フルフィルメントセンターなど
- エネルギー:エネルギー資源の探査・開発、発電(石炭・天然ガス、廃熱、その他廃棄物を利用するものを含む。石油関連は、DOEの承認を受けてBOIが別途決定する場合を除き対象外)、エネルギー貯蔵システム
- サステナビリティ関連:産業廃棄物・有害廃棄物の処理、水処理・給水、廃水処理、環境・気候変動関連
なお、「付加価値を生み出す製造活動」は記載が抽象的で、どの活動が含まれるかは、付加価値の基準を示すガイドラインで判断されることになります(2026年6月時点では、別途公表される予定とされていました)。
Tier 2
- 防衛関連サービス
- IC設計、海水淡水化プラント
- サプライチェーンの強化(鉄鋼、原油精製、輸入代替)
- サステナビリティ関連(EVと部品、EVインフラ、近代的公共交通、省エネ船舶・航空機、持続可能航空燃料、戦略的鉱物・グリーンメタル、バイオプラスチック、統合型廃棄物管理・リサイクル、再生可能エネルギー)
- 医療関連、食料安全保障
Tier 3
- 研究開発(R&D)、知的財産の事業化、航空宇宙、ウエハ製造
- 国防省が承認する防衛関連製造(2022年版のTier 3には含まれていなかった項目)
- 水素エネルギー、原子力エネルギー
- サイバーセキュリティ、AI・データサイエンス、量子技術(量子コンピューティングに関連するイノベーション活動)、インダストリー4.0・5.0技術の導入、地理空間解析、積層造形(3Dプリンティング)、現代バイオテクノロジー、新規ハイブリッド種子
- 革新的な製品・サービス、科学技術・イノベーションの支援施設
輸出活動の扱い
輸出活動は、Tier 2・3の要件を満たす場合を除き、原則としてTier 1に分類されます。
| 区分 | 要件・例 |
|---|---|
| 輸出製品の生産・製造 | 生産量の70%以上を輸出すること |
| サービス輸出 | 海外の顧客に提供し、外貨で支払いを受ける活動。70%の輸出要件を満たすこと |
| 輸出事業者を支援する活動 | 輸出事業者の製造に直接・合理的に必要な部品・資材の製造、輸出型企業向けに物流と倉庫業の両方を行う統合型ロジスティクス事業者(Integrated ELSE)など |
特別法・地域別の優先活動
特別法に基づく活動(書籍・教科書の発行、観光、PPPインフラなど)は、共和国法第9513号(再生可能エネルギー法)と第12024号(自立防衛体制活性化法)に基づくプロジェクトを除き、Tier 2・3の要件を満たさなければTier 1に分類されます。地域別の優先活動(BARMMのハラル観光・イスラム金融)も、Tier 2・3の要件を満たさなければTier 1です。
再生可能エネルギーは、Tier 2の優先活動と、特別法(再生可能エネルギー法)の両方に含まれています。再生可能エネルギー法に基づく活動は、BOIだけに適用される区分です。CREATE MORE法の優遇と特別法の優遇を同時に受けられるということではなく、いずれかを選んで申請する形と考えられます。
優遇期間の早見表(IPA承認の場合)
所得税の優遇期間は、立地の区分とTierの組み合わせで決まります。ITH(法人所得税の免除)を受けてからSCIT(総所得〔Gross Income〕に5%を課す特別法人税)またはEDR(追加控除レジーム)に移るか、最初からSCIT/EDRを選ぶかのいずれかです。SCITを選べるのは登録輸出型企業(REE)だけで、国内市場向け企業(DME)はEDRのみです。
| 立地の区分 | Tier 1 | Tier 2 | Tier 3 |
|---|---|---|---|
| マニラ首都圏(NCR) | ITH 4年+10年、または14年 | ITH 5年+10年、または15年 | ITH 6年+10年、または16年 |
| 大都市圏(メトロセブ、メトロダバオ)・NCRに隣接する地域 | ITH 5年+10年、または15年 | ITH 6年+10年、または16年 | ITH 7年+10年、または17年 |
| その他のすべての地域 | ITH 6年+10年、または16年 | ITH 7年+10年、または17年 | ITH 7年+10年、または17年 |
「+10年」と「14〜17年」の部分は、REEはSCITまたはEDR、DMEはEDRです。一般に、Tierが高いほど、またNCRから外れるほど期間は長くなりますが、表のとおり、区分やTierが違っても同じ期間になる場合があります(Tier 3の大都市圏等とその他の地域、その他の地域のTier 2とTier 3など)。
FIRBが承認する案件(IRRでは、投資額150億ペソ以上の案件は、IPAの推薦を受けてFIRBが承認を判断します)では、ITH 4〜7年の後にSCIT/EDRを20年間適用する方式、または最初からSCIT/EDRを24〜27年間適用する方式になります。DMEはEDRのみです。
実務で確認しておくこと
- 自社の活動がSIPPのどこに当たるか:新規の登録や事業拡張を申請する前に、2026年SIPPで該当するTierと項目、限定条件(「国防省が承認する」「新規の代替燃料を用いた」など)を確認する
- 立地の区分を比較する:同じ活動でも、立地の区分によって優遇期間が変わる。工場や拠点の立地を決める段階で比較する
- 輸出比率の見通し:輸出活動として登録する場合は、70%の輸出要件を継続して満たせるかを確認する
- 詳細ガイドラインの公表状況:「付加価値を生み出す製造活動」など、BOIの個別ガイドラインで判断される項目がある。申請時点の最新の公表状況を確認する
- 登録後のコンプライアンス:優遇税制の適用に当たっては、原則として課税年度ごとに、法人税の申告の前にCETI(優遇税制の受給資格証明)を申請する(IPAが個別のCETIに代えて、BIRにマスターリストを提出できる移行措置もある)。国内購入のVATゼロレートを利用するREEと高付加価値DMEは、毎年、登録プロジェクトごとにVATゼロレート証明を申請する(「PEZA登録後の税務コンプライアンス完全ガイド」)
よくある質問
SIPPに載っていない事業でも、PEZAやBOIに登録できますか?
CREATE MORE法の下では、原則として、SIPPに記載された活動だけがIPAへの登録申請の対象になり、承認された登録プロジェクトが優遇税制の対象になります。
SIPPの有効期間と改定の周期は、どう決まっていますか?
税法上、SIPPの有効期間は3年間で、3年ごとに改定するとされています。ただし、今回の2026年版は、2022年版から約4年後の公表でした。2026年版は2026年6月17日から有効です。
国内市場向けのIT-BPMやソフトウェア開発も対象ですか?
2026年SIPPのTier 1には、国内市場向けのIT-BPM活動や、SaaSを含むソフトウェア開発などが、クリエイティブ産業・知識集約産業として含まれています。個別の要件は、申請時に確認が必要です。
半導体・電子部品の製造はどのTierですか?
半導体・電子機器の製造、組立、パッケージング、試験などはTier 1に含まれています。IC設計はTier 2、ウエハ製造はTier 3です。
外資の出資比率の制限は、SIPPとは別ですか?
別の制度です。外資の出資比率の制限は、外国投資ネガティブリストなどで定められています(「第13次外国投資ネガティブリスト」)。
まとめ
2026年SIPPは、Tier 1〜3のすべてで対象活動が具体化され、高付加価値・イノベーション分野も広くカバーした改定です。CREATE MORE法の下では、原則としてSIPPに載った活動だけが優遇の対象になるため、新規の進出や拡張を検討する際は、まず自社の活動がどのTierに当たるか、限定条件はないか、立地の区分によって優遇期間がどう変わるかを確認してください。カメリアコンサルティングでは、PEZA・BOIへの登録と、優遇メニューの選択のシミュレーションを支援しています。
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執筆・監修:日比野和樹
