フィリピンにおける会計トラブル事例~初級編~
会計処理において、その方法は基本的には日本もフィリピンも大きく異なることはありません。ただし、コンプライアンス意識には差があると言われており、フィリピンにおける会計実務の常識に任せてしまうと思わぬ落とし穴に出くわすこともあります。
本編においては、フィリピンのローカルの会計事務所を使っていた日系企業から報告のあった実際のトラブル事例をご紹介します。
1.月次の財務諸表(BS/PL)が作成されていない
会計税務はローカルの会計事務所に任せているから大丈夫。一般的にはその認識で問題ありません。しかし、会計事務所によっては、月次の財務諸表を作成していないケースがあります。
会計事務所が毎月の税金計算のみを行い、日本人駐在員に金額を伝え、申告・納付を完了する。一方で、財務諸表は年度末に1年分をまとめて作成するというケースです。
年度末に財務諸表が完成し、日本人駐在員が初めて確認したとしても、数ヶ月前に発生した取引の内容を詳細に記憶していることは難しく、何らかの会計処理の間違いが発生していても、違和感に気が付かずに処理がされているという事態になりかねません。
もし委託先の会計事務所が月次の財務諸表を作成していない場合には、会計の専門家としての最低限の所作がなっていないため、既に税務リスクを抱えている可能性もあります。そのような場合にリスクを軽減したいのであれば、別の会計事務所に切り替えることが望ましいでしょう。
2.財務諸表の作成が数週間~数ヶ月遅延する
ローカルの会計事務所が、当月から大幅に遅れて財務諸表を顧客に共有するケースが少なくないようです。
特に翌月10日に税務申告があるため、それまでに税務処理を急いで行い、その後、翌月末にかけてあるいは更に数ヶ月遅延して財務諸表を作成することも常態化しているようです。
日本親会社でフィリピン子会社の財務諸表を連結する場合、毎月フィリピン子会社の決算書提出に時間がかかるという話を度々耳にしますが、フィリピンにおいても早期化は可能です。
月次の財務諸表は重要な経営判断材料でもありますので、会計事務所の力も借りて、妥協せずに早期化に向けた取り組みを続けると良いでしょう。
3.会計帳簿の現預金残高が銀行の預金残高等と乖離している
会計帳簿の現預金残高と銀行の預金残高・小口現金が相違するケースがあります。銀行・取引先において小切手の処理が遅れていることは往々にしてあり、状況が把握できていれば問題ありません。一方で、無理に会計帳簿を銀行の預金残高に合わせにいった結果、不明な計上が発生していたり、計上漏れや不正に現預金が流出している可能性もあるため、常に預金残高・小口現金残高を突合させ、帳簿と相違がある場合には必ず原因を把握しましょう。
第三者の専門家の目が入ることでも、被害を最小限に抑えたり、不正が起こるリスクを未然に防ぐことができます。
4.現金主義で会計記帳をしている
フィリピンにおいても会計は発生主義で行う必要があります。一方で、経理担当者が現金主義で行ってしまっているケースがあります。
具体的には、毎月月末に支払うオフィスの地代家賃について、支払いが月を跨いでしまったことから、当月は地代家賃の費用が計上されておらず、翌月に2ヶ月分の地代家賃が計上されていたり、工期が半年のプロジェクトを受託した場合において、各月に売上高を按分すべきところ、支払い受領時に一括で売上高を立てているケース等です。
税務計算においては、現金の出入りに連動して税金が計算されることがありますが、財務諸表は発生主義で作成するため、現金の動きに関わらず適切な期に取り込むことが正しい処理となります。
同様に、毎月発生する費用について、請求書の受領の遅延により当月に計上されていない場合もあります。月単位で損益が変動することになり、分析が複雑化するため、確りと発生主義で会計処理を行うことが必要となります。
5.給与計算が間違っている
給与計算のミスは、フィリピンにおいて頻発しているように思われます。従業員が給与額が少ないと報告してきたり、給与計算の詳細を聞いてくるタイミングで発覚する場合が多いようです。当然ではありますが、従業員は給与について非常に関心度が高く、実態として給与計算ミスがあることを認識しており、確りと納得したいというインセンティブがあります。
給与計算の委託先であるローカルの会計事務所に確認をすると、従業員が納得する明確な回答が得られず揉めるケースがあります。フィリピンの労働法・労働雇用省(DOLE)においては、労働者保護の観点が非常に強いため、従業員に対して不利益な扱いを行ってしまった場合にリスクとなりますので、最大限の配慮が必要です。また給与計算ミスを契機に、会計処理も確認したところ、多くのミスが見つかったというケースもありました。
6.会計処理が間違っている
会計処理のミスやその原因は様々です。「費用の二重計上」「数字が1桁間違っている」という単純なミスや、「収益以外の入金を全て売上高に計上」「費用と結びつかない出金を立替金に計上」「会計担当の退職後に会計処理が整合しない」という情報不足に起因するミス等です。
いずれも内部統制が機能していて第三者・複数人が目を通していたり、適切なコミュニケーションが取られていれば未然に防ぐことができるものです。しかしながら、通常は社内で内部統制を理解している担当者がいないため、一時的に外部専門家を起用して、会計処理のミスを軽減させる取り組みも有効です。
上記のとおり、フィリピンにおいては会計事務所に業務委託をしていた場合においてもトラブルが発生するケースが多々あります。本編で紹介した内容は細かい税務処理に係る内容ではないため、日系企業の皆さまが会計ソフトや財務諸表を通じて日々モニタリングを行うことも可能ですし、一度弊社を始めとする外部専門家におけるレビューを行うことにより、その信頼性を担保し、リスクを軽減させることも望ましいと言えます。ご不明な点やご相談事項があれば、まずはお気軽にお問い合わせフォームまでご連絡ください。
投稿者プロフィール
- 独立系コンサルティングファームにて、M&A事業部、内部監査室を経て、2015年にフィリピン赴任。その後、外資系コンサルティングファームに転職し、主に国内上場企業のM&AにおけるFA業務を経験。2023年にフィリピンにて独立。
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